先月末からフランスのパリで、COP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)とCMP11(京都議定書第11回締約国会議)が開催されています。今回は、京都議定書に続く2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みを作ろうとしています。

 

ほとんどの人は、こういった会議は地球環境を改善するために真剣に議論していると思っているのではないでしょうか。しかし、実際は自国のエゴを通して、自国の国益を得て、他国の国益を損なうということが行われています。その典型例が京都議定書です。

 

京都議定書は1997年に採択され、先進国と市場経済移行国を中心とする38ヶ国が分担して二酸化炭素などを含む温室効果ガスを1990年比で削減することになりました。

 

そもそも、温室効果のある気体の中では水蒸気の温室効果がほとんどであって、二酸化炭素の温暖化への寄与は水蒸気に比べると非常に小さいものです(詳しくは「温室効果ガスの温暖化寄与」 参照)。二酸化炭素が増加することによる温度上昇というのは、極僅かしかありません(詳しくは CO2 増加による温度上昇はどのくらい?」 参照)。

 

そして、気温上昇は地球温暖化というよりもヒートアイランド現象の影響が大きいとも言われています(詳しくは「気温上昇はヒートアイランド現象の影響」 参照)。

 

 

話を京都議定書のことに戻しますが、二酸化炭素排出量を1990年比で削減するというところに、欧州の策略が現れています。

 

京都議定書が採択されたのは1997年なのですから、1990年ではなくて採択された年に近い年を基準にするべきだと思いませんか?

 

しかし、それでは欧州諸国は都合が悪かったのです。なぜなら、1990年比にすると欧州は二酸化炭素排出の削減が容易だったからです。

 

1990年というのは、東西ドイツが統一された年です。当時の東ドイツは西側諸国に比べてエネルギー効率が非常に劣っており、西ドイツの技術や効率的な社会体制を導入すれば、かなり二酸化炭素の排出を削減することが可能でした。ドイツは1990年を基準にすると、10年間で19%も二酸化炭素の排出量を削減できました。

 

ちなみに、1994年では1990年比で、旧東ドイツ地域における二酸化炭素排出削減が41%だったのに対し、旧西ドイツ地域では3%増加となっていました。

 

また、英国は北海油田の開発が進んで、石炭に依存していたエネルギーを天然ガスに切り替わることでエネルギー効率が高まり、1990年代に二酸化炭素の排出量を13%削減することができました。1990年時点では、まだエネルギー効率が低い石炭火力発電所が多く残っていました。

 

実はドイツでも1990年以降にロシアから天然ガスの提供を受け始め、エネルギー効率の悪い石炭からエネルギー効率の高い天然ガスへの転換をしてきました。

 

更に欧州は、EU全体での削減ということになっており、東ドイツ以外のポーランドなどが加盟することで、余計に二酸化炭素排出量の削減が容易になります。

 

つまり、1990年を基準にすると欧州は技術革新などがなくても二酸化炭素排出量を容易に削減することが可能だったのです。

 

一方、日本は石油ショック以降にエネルギー関連の省エネ技術の導入がされており、1990年時点では二酸化炭素排出量の削減余地がほとんどありませんでした。

 

京都議定書では、二酸化炭素を含む温室効果ガスを1990年比で、EU8%減に対して日本は6%減と削減比は小さくなっていましたが、日本の方が目標を達成するのは非常に困難な状況になっていました。

 

また、京都議定書では二酸化炭素排出権の取引ができることが採用されました。排出削減の目標に達しない場合などは、他の国が排出量を削減した分をお金で買い取ることで、自国の二酸化炭素を削減したと見做すことができるようになりました。

 

この排出権取引は、日本のように排出削減目標が達成困難な国から、お金を毟り取ろうという仕組みです。米国は、こういった欧州の狙いを見透かしていたので京都議定書から離脱しました。

 

下の画像は、今年の101日時点での各国の削減目標です。各国が2000年以降を基準にして削減目標を掲げているのですが、EUだけは1990年を基準にしています。

 


二酸化炭素削減目標
資料出所:全国地球温暖化防止活動推進センター(
JCCCA)ホームページ

 

数字だけを見ると、EU40%削減と他国よりも厳しい目標に見えますが、上述のように1990年比にすることで実際には他国よりもハードルが低いものになっています。

 

こういったことを知らずに、地球温暖化対策への各国の取り組みを見てしまうと、誤った見方をしてしまうことになります。COP21というのは、地球温暖化対策を話し合う場というよりも、地球温暖化を利用して国益を奪い合う政争の場という認識を持った方がいいでしょう。

 

欧州の国の中には、日本は温暖化対策への取り組みに消極的だと批判するところがあるようです。しかし、「よくそんなことが言えるな」というのが私の個人的な感想です。


(関連の記事)

○CO2増加による温度上昇はどのくらい?
○温室効果ガスの温暖化寄与

○気温上昇はヒートアイランド現象の影響
○地球の気候変動の要因
○東京の気温が下がっている?
○温暖化しているのに南極の氷は増加している?


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