【監督】三宅唱
【原作】つげ義春「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」
【上映時間】89分
【配給】ビターズ・エンド
【出演】シム・ウンギョン(李)
河合優実(渚)
髙田万作(夏男)
佐野史郎(魚沼)
堤真一(べん造)
【公式サイト】
三宅唱監督の待望の新作。主役も「新聞記者」で鮮烈な印象を与えてくれたシム・ウンギョンが、韓国から日本に来て脚本家をしている李(シム・ウンギョン)を演ずる作品で、いずれにしても期待の一作でした。
物語は、つげ義春の2本の漫画、「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」をベースにしていました。いずれも”旅”を題材にした作品でしたが、「海辺の叙景」は李が脚本を担当した劇中映画の体裁で、ここには今年も絶好調の河合優実が主役として登場し、無類の存在感を発揮。神津島に旅に出た2人の若者が、何処となく”死”を意識させる寂しげなお話でしたが、この劇中映画はここだけを短編として切り出してもひとつの作品となるほどのクオリティの高さでした。
「ほんやら洞のべんさん」の方は劇中映画ではなく、スランプに陥った李が山奥の温泉宿に旅行し、民宿(と言えるのか?)のオヤジ・べん造(堤真一)と寝起きを共にしながら泥棒体験をするというお話。「海辺の叙景」同様、互いの身の上とか思いを語り合う姿は、時折ユーモアを交えつつも人間心理の本質をついていて、それでいて結論を出さないところが極めて上質でした。
以上、つげ義春の原作をベースにしてはいるものの、ストーリーとしては独自の世界観というか雰囲気を醸し出していた作品でしたが、これまでの三宅監督の作品とはかなり味付けが異なっていたように感じました。「ケイコ 耳を澄ませて」や「夜明けのすべて」は、ハンディキャップを背負って生きる主人公の生き様を描いており、かなりストレートに観客にメッセージを放って来る感じがありました。一方本作はそうしたスタイルとは対照的に、作品全体の空気感を伝えることで、観客それぞれに解釈させることを誘っているようでした。
別の見方をすると、直近で同じく”旅”をテーマにしたホン・サンス監督の「旅人の必需品」を観たこともあり、また主演が韓国人俳優だったことも手伝って、作風がかなりホン・サンス風だったなとも感じたところでした。
俳優陣では、シム・ウンギョンや河合優実が良かったのは言うまでもないのですが、べんさんを演じた堤真一のなり切りぶりは流石でした。正直何を言っているのか理解できない部分もあった方言も良かったし、久々の客に舞い上がっておかしな行動に踏み切ってしまうべん造の滑稽さも見事に表現出来ていました。今年は「室町無頼」にはじまり、「木の上の軍隊」、「アフター・ザ・クエイク」など、時代劇から戦争物、現代劇に至るまで八面六臂の大活躍は大いに評価すべきところでしょう。
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