【映画】新聞記者 | 鶏のブログ

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観た映画、読んだ本などについてのメモです

 

現代日本における政治とメディアの関係や、政治状況をテーマにしている作品なので、観る人の政治的な立場によって、かなり評価が分かれうると思いますが、ここでは実際の政治的な立場を脇に置いて、一つの映画作品としての感想を述べたいと思います。

ストーリーが進むうちに、シム ウンギョン演じる主役の女性記者・吉岡と、松坂桃李演じる外務省から内閣情報調査室に出向している官僚・杉原の2人に自然と感情移入していくことになりましたが、常に誰かに見張られているという恐怖感が半端なく伝わってきました。

そして全編を通じて暗いトーンで描かれている映像に加えて、田中哲司演じる敵役・多田の怪物的な不気味さが非常に際立っており、一種のホラー映画を見ているように感じられました。

明らかに異世界の話と分かるホラー映画であれば、現実と切り離してその怖さを楽しむことが出来ますが、本作の場合は現実世界を舞台にしていて、舞台装置のどれもが実際にありそうなものばかりなので、その怖さが映画館を出ても残っている感があり、1,800円を払った効果は非常に長く続いています(笑)

また、一度は義憤に駆られて立ち上がった杉原も、最後には怪物・多田にタマを取られてしまいますが、この直後の呆けたような表情は絶品でした。「娼年」の時の松坂桃李もなかなか良かったですが、本作ではさらに演技の幅が広がったように思えます。

そして、ストーリー的に最も良かったのは、この悲劇的なエンディングだったのではないでしょうか。何の救いもなく、怪物的な権力に逃れようもなく絶望的に飲み込まれてしまうという話は、観る者に権力の恐ろしさを印象付けるのに充分な効果を発揮しており、制作者の狙いが成功したと言えるでしょう。

少し不満な点を2つ挙げるとすれば、まずは主人公の女性記者・吉岡の人物設定です。日本人ジャーナリストの父親と、韓国人の母親を両親に持ち、アメリカで教育を受けたというものでしたが、これが本作のテーマにどれだけ必要だったのかという疑問が残りました。特に、どちらかと言えばアメリカを肯定的に描いていたのは、実際のアメリカの姿を念頭にし、かつこの後述べることと合わせると、いささか白けさせられた部分でした。

不満な点の2つ目は、吉岡と杉原らが、首相のお友達に経済特区に医療系大学を開設させて、そこで化学兵器を研究させるというスキャンダルを暴露することになりますが、現実の政治状況と考え合わせると、捻りが足りなかったように思えたところです。
今の日本政府というか安倍政権は、先日のトランプ大統領の来日時の安倍首相の太鼓持ちぶりを見ても分かるように、アメリカ様のご機嫌を伺い、その意向に100%従っている従僕のような存在です。
そんな状況を考えると、アメリカに相談もせず、日本が独自に化学兵器を研究開発するなんてことは絶対にありえません。そうした意味で、本作の中でもアメリカの要求に従って化学兵器の研究をするという設定にしておいた方が、余程現実身を帯びていたのではないかと思えました。単に首相のお友達案件を暴露するという話にしてしまうと、話のスケールを自ら矮小化してしまっているように思えました。
(敢えて私の政治的立場から言えば、日本が自衛のために、アメリカの意向と関係なくABC兵器を研究開発するというなら、寧ろ賛成です。)

良かった点、不満な点を挙げましたが、総合すればかなりいい作品だと思います。昨年「ペンタゴン・ペーパーズ」を観たときは、日本でもこういう作品があればいいなと思ったものでしたが、そうした欲求はかなり満たされましたし、加えてホラー的な要素もあり、満足度はかなり高い作品でした。 

 

総合評価:★★★★★