【映画】ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ~学級崩壊から始まる人情噺 | 鶏のブログ

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観た映画、読んだ本などについてのメモです。
”ネタバレ”を含みがちなので、その点ご容赦下さいませ。

【監督】アレクサンダー・ペイン

【原題】The Holdovers

【制作国】アメリカ

【上映時間】133分

【配給】ビターズ・エンド

【出演】ポール・ジアマッティ(ポール・ハナム)

    ダバイン・ジョイ・ランドルフ(メアリー・ラム)

    ドミニク・セッサ(アンガス・タリー)

【公式サイト】

 

まずは題名から。ホールドオーバー=holdoverとは、”留任者”とか”残留者”、”残っている人”という意味だそうです。落語に「居残り佐平治」という古典の演目がありますが、英訳すると「The Holdover "Saheiji"」というところになるのでしょうか。「居残り佐平治」で言うところの”居残り”とは、遊郭で金を払えずにそのまま拘束されてしまうという意味であり、計画的に”居残り”をして廓に拘束された佐平治が、幇間の真似をして客から祝儀を貰うという、滑稽で面白おかしい”廓話”でした。

一方本作は、時はベトナム戦争当時、1970年末のクリスマス前後の時期の半月ばかりのお話で、場所はボストン郊外にある全寮制の寄宿学校・バートン校を舞台に、クリスマス休暇で殆どの生徒が家に帰ったり旅行に行ったりする中、家庭の事情で”居残り”をする羽目になったタリーと、彼の監督をするためにやはり”居残り”となった嫌われ者の教師ハナム、そして彼らに食事を給仕する給食担当メアリーの3人の、実にハートウォーミングな”人情噺”でした。

 

三者三様に複雑な家庭の事情や暗い過去を抱えた彼らでしたが、タリーは手が付けられないような悪ガキだし、ハナムもアカハラ要素たっぷりの教師で、通常の授業が行われている時も全くソリは合っていない感じでした。特に”居残り”になってからはその対立関係がより先鋭に。でも最愛の息子(彼もバートン校の卒業生だった)をベトナム戦争で亡くしたばかりのメアリーの不思議な求心力により、徐々に相互理解が生まれてくる展開に。

一番良かったのが、お互いに包み隠さない本音をぶつけ合うことで、ショックを受けつつも徐々にお互いを人間として認めていく過程でした。特にハナムの強情とも言える生徒に対する厳しい態度が、実は彼自身の学生時代の出来事に由来したものであり、それを聞くとこちらも納得すると同時に、彼への共感が生まれました。たまたま出会った学生時代の友人に嘘を吐く虚栄心も、彼の人間らしさを十二分に表現したエピソードだったと思います。そして既に信頼関係が生まれていたタリーも、調子を合わせてハナムをサポートするあたり、もはや擬似的な親子関係になっていたように見えました。

最後は退学寸前の擬似息子・タリーを、自分の人生にとって最も大切な教職を投げうって助ける擬似父・ハナムのカッコ良さは、実に清々しくかつ感動的なものでした。

 

今年の米国アカデミー賞作品賞のノミネート作品であり、メアリー役のダバイン・ジョイ・ランドルフは助演女優賞を受賞しただけあって、すこぶる前評判も高かった本作でしたが、期待を遥かに上回る良作でした。

 

そんな訳で、本作の評価は★5とします。

 

総合評価:★★★★★

詳細評価:

物語:★★★★★
配役:★★★★★
演出:★★★★
映像:★★★★
音楽:★★★★★