【映画】関心領域~隣人の苦難に関心を持てるか? | 鶏のブログ

鶏のブログ

観た映画、読んだ本などについてのメモです

【監督】ジョナサン・グレイザー

【原作】マーティン・エイミス

【原題】The Zone of Interest

【制作国】アメリカ/イギリス/ポーランド

【上映時間】105分

【配給】ハピネットファントム・スタジオ

【出演】クリスティアン・フリーデル(ルドルフ・ヘス)

    サンドラ・ヒュラー(ヘートヴィヒ・ヘス)

【公式サイト】

 

ナチスドイツがポーランドに建設したアウシュビッツ強制収容所の所長だったルドルフ・ヘス一家が、収容所の隣にあった自宅で暮らす様子を描いた異色作でした。ナチスドイツがアウシュビッツで行った人類史上稀にみる非人道行為により、ユダヤ人を中心に110万人が虐殺された訳ですが、本作は壁一つ隔てたヘス家の自宅こそ画面に登場するものの、収容所内の映像は一切ありませんでした。しかしながら遺体を焼却する焼却炉の建設計画の会議シーンなど、収容所内部の概観が想像できる場面が散りばめられていたほか、何と言っても収容所内の残虐行為の”音”が、恒常的に聞こえて来るのが最大のポイントでした。銃を撃つ”音”、棒や鞭で打ち付けるような”音”、そして”叫び声”などが、ずっと聞こえて来る訳ですが、こんな環境下において、ヘス一家は全く”音”に反応することなく、普通に暮らしています。まさに”関心領域”に一切入っていないというのが驚きでした。

これまでもナチスドイツの残虐行為を取り上げた映画はたくさんあったと思いますが、ここまで間接的な形でそれを描いた作品もなかったのではないかと思います。そして間接的だからこそ、残虐行為とその傍観者という構図が、ナチスが跋扈した時代に留まらず、現代性をも帯びた形で観るものに訴求して来る流れになっており、実に意義深い作品だったと感じました。

 

そして極めて皮肉だと思ったのは、アウシュビッツで憂き目に遭ったユダヤ人国家であるイスラエルが、今やガザ地区のパレスチナ人に対してジェノサイドとも言える行為をしている現実です。この辺りは人類の馬鹿さ加減に絶望せざるを得ないところですが、問題はこうした現実を目の当たりにして、壁を一つ隔てた場所にいる我々が、どれだけこうした現実に目を向け、声をあげられるかということかと感じたところです。

 

全然話は変わりますが、題名の「関心領域」と言う言葉は、ナチス親衛隊がアウシュビッツ周辺地域を表現するために使った言葉のようですが、実は全く異なる場面でも聞いたことがありました。脳の海馬・扁桃・嗅内野の大部分のことを”関心領域”というそうで、認知症になるとこの領域に委縮が見られるそうです。はじめ「関心領域」という題名を聞いた時、この脳の海馬付近の話とか、認知症のことに関連付けた話なのかと思いましたが、全然違いました。因みに「関心領域」の原題は「The Zone of Interest」ですが、脳の”関心領域”の英語表記は”Volume of Interest”だそうで、英語にすると表記が異なるため、制作者が意識した訳でもないようですね。

 

そんな訳で、本作の評価は★4とします。

 

総合評価:★★★★

詳細評価:

物語:★★★★
配役:★★★★
演出:★★★★★
映像:★★★
音楽:★★★★★