【映画】沈黙の艦隊~時代背景を曖昧にする無責任と究極の尻切れトンボ | 鶏のブログ

鶏のブログ

観た映画、読んだ本などについてのメモです

【監督】吉野耕平

【原作】かわぐちかいじ

【制作国】日本

【上映時間】113分

【配給】東宝

【出演】大沢たかお(海江田四郎)

    玉木宏(深町洋)

【公式サイト】

 

かわぐちかいじ原作の同名の漫画を実写化した文字通り潜水艦映画でした。原作は1988年から1996年まで週刊モーニングに連載されており、当時は毎週モーニングを買って読むだけでなく、単行本まで買うほどに熱心に読んでいたので、実写化されたというので何はともあれ観に行きました。ただ”期待に胸を膨らませ”というよりは、きっとガッカリするんだろうなあという嫌な予感を合わせ持ちつつ観に行くという感じでした。

何故そんな気持ちだったのかと言えば、同じくかわぐちかいじ原作の”自衛隊物”で、漫画の連載は「沈黙の艦隊」よりずっと後だったのに、既に4年前に実写映画化されていた「空母いぶき」の出来栄えが、余りにもガッカリだったことからの連想でした。また、これは期待と不安相半ばするところでしたが、1988年の連載開始当時はソビエトが健在で、米ソ対立は雪解け傾向にあったものの、いまだ冷戦構造が存在した時代を背景とした原作を、どのような時代設定で映画化するのかという部分に興味がありました。また、単行本にして全32巻もある”超大作”とも言える原作を、どのように2時間程度に詰め込むのかというところにも注目でした。

 

果たしてその結果は。。。

 

一言で言うと、当方の嫌な予感を遥かに上回る驚きの内容でした。まず一番興味のあった時代設定ですが、西暦何年と明示はされていなかったものの、空中から撮影された東京の風景は現代そのもの。だからソ連が消滅してロシアが出来、中国が経済的にも軍事的にも飛躍的に台頭して米中が対立し、北朝鮮が核ミサイルを保有する時代の出来事として描かれていたと解しましたが、不思議なことに日本の首相の名前は竹上登志雄。言うまでもなく連載開始当時の竹下登から命名された名前。名前なんてどうでもいいという見方もあるかも知れませんが、実は名前だけの問題ではありません。

というのも、これは2番目に注目していたこととも関連するところですが、何と本作、全32巻ある原作のうち、4巻の途中までしか描いていないのです。確かにこの辺りまでが原作の第一章とも言うべき部分であり、一番衝撃的な掴みの部分であることは確かだと思うのですが、この箇所には日本とアメリカ以外の国が、原作においてすら登場しないのです。そのため、ソ連がロシアになっていようが、ロシアがウクライナに侵攻していようが、中国が日本を抜いて世界第二の経済大国となり、軍事的にもアメリカに挑戦するほどに巨大化しているとか、北朝鮮がたびたび”弾道ミサイル”を日本周辺にぶっ放しているとか、そういった現実世界の問題を一切引き受けていない訳です。

 

「日本がアメリカの協力を得て秘密裏に原子力潜水艦を建造する」という「沈黙の艦隊」のメインテーマは、1988年という時代背景があってこそ成り立っていた訳で、2023年という時代設定にするなら、相当な改変が必要だったと思う訳ですが、結局本作ではそうした問題に一切蓋をして、渋谷にはスクランブルスクエアが建っているのに、首相は竹下登の分身みたいな竹上登志雄が登場するという、支離滅裂の構造になってしまっていたことが残念だったとともに、ああ予想通りだな、という不思議な安堵感もあったような作品でした。

 

また声を大にして文句を言いたいのは、前述の通り全32巻の原作のうち、4巻の途中までのストーリーしか描いていないのに、それを明示していないのはいくら何でも酷いんじゃないかと思います。歌舞伎や文楽で忠臣蔵をやるときだって、必ず何段目をやるのかを明示します。忠臣蔵で言うなら、本作は浅野内匠頭がまだ吉良上野介に松の廊下で切りかかっていない段階で終わってしまっただけに、初めからそのことを言って欲しかった。しかも続編があるのかすらも現時点では分からず、全くもって無責任だと言わざるを得ないものでした。

 

散々文句を言った上で役者陣の話に移りますが、主人公の海江田のライバルである深町役の玉木宏は、個人的にイメージ通りでした。原作通りに、骨っぽくて人情味があり、正義感も併せ持つ軍人の雰囲気が良く再現されていたと思います。一方主人公の海江田を演じた大沢たかおですが、「キングダム」の王騎将軍のイメージを当方が勝手に引きずっていたせいもあるかも知れませんが、ちょっと不気味過ぎて原作の海江田の再現性は低かったように感じました。原作の海江田は、深町とは対照的に丸みを帯びたフォルムであり、父性というよりは母性を感じさせるキャラクターだったように思いますが、本作の海江田は妖性を帯びていた感じでした。因みに海江田から母性がなくなった替わりに(?)、深町が艦長を務める「たつなみ」の副艦長が女性(水川あさみ)だったり、防衛大臣が女性(夏川結衣)だったり、「やまなみ」沈没という事件の真相を追うキャスターが女性(上戸彩)だったりと、バッチリと2020年代という時代背景は反映されていました。

 

いずれにしても、続編を作るのかどうかというのが今後の注目なのですが、1990年前後から30年も時計を進めた現代劇として本作を作ってしまった以上、続編の構成は相当苦労するのではないか、かなり良く練らないと、ストーリーが完全に崩壊するのではないか、いや、人間業ではまともな続編など作れないのではないか、そんなことが頭に浮かんだ実写版「沈黙の艦隊」でした。

因みに原作では、本作のエンディング直後にソ連の原潜と海江田率いる「やまと」が対峙することになります。

 

そんな訳で、究極の尻切れトンボだったこともあり、評価は★1にしようかとも思いましたが、防衛省及び海上自衛隊の協力の下に撮影されたらしい潜水艦の潜航シーンなどは良かったので、★2とします。

 

総合評価:★★

詳細評価:

物語:★
配役:★★★
演出:★
映像:★★★★