【映画】国葬の日~国葬を通じて考える日本の民主主義 | 鶏のブログ

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【監督】大島新

【制作国】日本

【上映時間】88分

【配給】東風

【出演】ドキュメンタリー

【公式サイト】

2022年7月8日、参議院選挙の遊説中に奈良の西大寺駅前で凶弾に倒れた安倍元首相。安倍家としての葬儀は、7月11日12日の両日に増上寺で執り行われましたが、岸田政権は国葬を実施することを閣議決定。各種世論調査で反対意見が賛成意見を上回る結果が出る中、同年9月27日に日本武道館で国葬が行われました。本作は、国葬そのものではなく、国葬当時の日本全国10都市の風景を取材し、市井の人々の声を拾ったドキュメンタリーでした。

 

当然ながら国葬の賛否を尋ねるインタビューがメインでしたが、それ以外の日常風景を撮影したシーンもありました。その中で一番ニヤニヤさせられたのは、浅草でのワンシーン。幼稚園の遠足らしき集団を映したものでした。園児たちを前にして、先生が「今日は皆さんトラブルなく行動出来ましたか?トラブルがなかった班の班長は手を挙げて」と言います。幼稚園の先生と言う立場では致し方ない発言なのかも知れませんが、トラブルなく行動することと同等かそれ以上に、トラブルに遭った時に如何に対応できるかを学ぶことが重要なんじゃないかと感じたところです。

まあ国葬とは一切関係のないシーンなのですが、その後国葬に対する賛否を問うインタビューを見て行く過程で、どういう教育を受け、どういう体験をしてきたかによって、”国葬”という国家的一大イベントに対する態度も決定づけられていくんだろうなという風に思えたところでした。幼稚園と言う初等教育の段階から”事なかれ主義”を教えていると、いざと言う時に応用が利かず、自分で考えられない大人になってしまうんじゃないかとも感じられました。

 

また、国葬の直前に台風15号の影響で水害に遭った静岡県清水のシーンも非常に印象的でした。床上浸水になった家屋の片付けを、地元の清水東高校サッカー部の生徒たちがボランティアで手伝っている姿が取材されます。被害に遭った人の中には、国葬に使う予算があるなら、被害者救済に使って欲しいという声も上がっていましたが、高校生たちはこうした政治的な話もせず、黙々と片付け作業をしていきます。そうした爽やかな態度に心が洗われる思いをした訳ですが、さらに片付けを手伝ってもらった人が、「後でみんなでラーメン食べてね」と、高校生たちに1万円を渡します。最初は受け取らなかった高校生ですが、余りに熱心に言われて受け取ったものの、その後「これは寄付します」と発言。ボランティア活動も立派なら、貰ったお金を寄付しようという機転にも恐れ入りました。この一連のシーンが、本作で最も清々しい下りでした。

 

肝心の国葬に対する賛否については、賛成派は「功績があったから」とか「外交で頑張ったから」というものが主で、中には「大統領やってたから」というものもあり、中々意地悪な編集がされてました(笑)逆に反対派は、国葬が閣議決定で決められたことや、安倍政権下で決められた”憲法違反”の安保法制や、沖縄における辺野古基地建設などに反対する立場からの反対意見がありました。また、国葬そのものに興味関心がない人も結構な数いました。

いずれにしてもいろんな立場の人がいた上でのひとつの国なので、賛成であろうが反対であろうが、はたまた関心がなかろうが、それはそれで受け止めるしかありません。ただ一応日本は民主主義国家を標榜しており、主権者は国民であることを考えると、日本の民主主義が有効に機能するかどうかは、ひとえに国民のリテラシーとか考える力によって決まる訳で、その点では本作全体を通して観ると、何となく暗澹たる気分になったというのが素直な感想でした。

 

因みに個人的には、法的根拠がない国葬開催を、閣議決定だけで実施したことについては、日本の民主主義が一切機能していないと思わざるを得ません。参院選挙後の2022年8月3日に臨時国会を開いたのですから、その際に国葬についても国会で承認を得れば、少なくとも形式的には瑕疵がない状態で国葬を開催できたにもかかわらず、そうした手続きすらもすっ飛ばす岸田内閣は、明らかに民主主義を軽視していると言わざるを得ないと思います。

その一点でも国葬に反対するに十分ですが、仮に国会決議があったとしても、安倍氏のやったことを考えれば、国葬をする必然性は皆無だったと言わざるを得ません。上述の憲法違反の安保法制制定だけても民主主義国家としてあり得ないと思いますが、「外交の安倍」と言うキャッチフレーズとは裏腹に、「ゴールまで、ウラジーミル、二人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか 」なんて言ってプーチンにお追従を述べたり、慰安婦問題は日韓基本条約で解決済みという従来の日本政府のスタンスを覆して日韓慰安婦合意をしたり、トランプの言いなりにアメリカから武器を買ったりと、実際外交的な敗北ばかりでした。また、韓国発祥の反日カルトである統一教会の広告塔だったこと、桜の見る会を巡って、国会で118回も虚偽答弁をしていたことなど、安倍氏の不行跡は枚挙に暇がありません。それらを考えれば国葬に賛成など出来る訳がないでしょう。

 

最後の方は本作と全く関係ない話になってしまいましたが、国葬が行われた9月27日を切り取って一本のドキュメンタリーにするという発想は素晴らしいと感じたところです。そんな訳で評価は★4とします。

 

総合評価:★★★★

詳細評価:

物語:★★★★
配役:★★★★★
演出:★★★★
映像:★★★★
音楽:★★★
 
ポレポレ東中野で行われた上映後のアフタートーク。
この日は大島監督と、「劇場版 センキョナンデス」や「シン・ちむどんどん」の監督も務めたダースレイダーさんの解説に聞き入りました。相変わらずダースレイダーさんの民主主義評論は秀逸で、行って正解でした!今から選挙シリーズ第3弾が楽しみです。