【映画】ジョーカー~実は現代の深刻な問題を扱った作品 | 鶏のブログ

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殺人を扱った映画であるということと、ポスターに写った不気味なピエロの写真くらいしか事前の情報を知らずに見に行きました。 てっきり、「羊たちの沈黙」のレクターのような、猟奇的殺人鬼のお話だと思い込んでいた訳ですが、いい意味で裏切られました。 

 

貧困と心の病を抱える主人公アーサーは、公的扶助から切り捨てられ、上流階級からも悪し様に扱われるだけでなく、街の悪童連にも非道な犯罪行為を受け、さらには職場のボスや同僚からも不当な扱いを受ける中で、殺人(最初のは正当防衛という気もしますが)を犯すことになります。 彼は社会に身の置き場がなくなり、果ては最も信頼していた母親をも信じられなくなってしまい、母をも殺してしまうことになりますが、要は、人間というもの、一定程度社会や家族と良好な関係を持つことが出来ないと、平衡を保って生きてくことが非常に難しいということなのでしょう。 

 

そしてこの問題は、地域社会の連帯が崩壊し、核家族どころか単身世帯が増えたことで、砂粒の集まりのようになってしまった現代社会、特に大都会においては、誰しもが陥る可能性のある深刻な状況であると考えられます。そうしたテーマが底にあるからこそ、本作が注目されたのでしょう。その表面的な「殺人」という行為に反して、主人公に共感すら覚えるのも、そうした現代的で深刻な問題を扱っているからだと思います。 

 

演出面では、主人公の幻想と現実が入り乱れて、一体何が現実なのかが分からないようにしているところが非常に上手く作られていたと感じました。また、舞台となったゴッサム・シティの風景も、暗くて重たくて湿った感じが良く表現されており、観るものに不安を駆り立てずにいられませんでした。 

 

そして何よりも、主人公を演じたホアキン・フェニックスの演技は見事でした。軽やかな動きを見せつつも哀愁を漂わせるその姿に、すっかり魅了されてしまいました。

 

評価:★★★★