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「…もしもし。一護だけど。」
***と出掛けた日の夜 風呂から上がってから…マスターに電話をした。
「…いや全然。誘ったのは俺だし。…でさ、電話したのは他でもねーんだけど、」
窓際に立ち 暗闇に降り続く雨を見つめる。そして一息つき伝えた。
「昨日のあの話、聞かなかったことにしたい。」
昨夜のマスターからの電話を思い出しながら。
・・・・
『***ちゃんから聞いたんだが、明日二人で出かけるのか?』
退院祝い兼歓迎会を終え 夜遅くだ。珍しかった。マスターから電話とか。
「ああ。この辺案内してやろうかって。それが?」
『そうか…。なんというか…仲良くしてやってくれ。』
「は。」
『姉さんに頼まれてるんだ。***ちゃんのことを随分心配していてな。』
ああ…なんか言ってたな…。
病院での***との会話を思い出す。一人でいる自分をねーちゃんが随分心配してとか…。
『あの子は世間知らずだから心配だって。』
あ、そっち?
「んな危なっかしいヤツじゃねーだろ。」
『いろいろあるんだよ…。』
「いろいろってなに。」
『…。別に。』
「そこまで言って言わないとかあんのかよ。」
俺がどれだけ問い詰めてもマスターは理由を話そうとしなかった。ただ俺のしつこさに根負けしたか、ひとつだけ、
『彼女の姉さんはこのまま吉祥寺にいさせたいと言っているんだ。』
『え?』
『もちろん本人の意思を尊重するけどな。』
夏が終わっても…ここに?
「…っ…」
マジか…。
聞いた時 気持ちが昂った。もうあの時点で俺は***に惚れてたんだよな。
『アイツはちょっとシスコンの気があるよなぁ…。』
アイツってのは***のねーちゃんのこと。マスターとどういう関係なのか知らねーけど、
『大げさなんだよなぁ…。』
マスターはいつまでもブツブツ言っている。心配させる何かがあるらしい…それは気になる…だけど、
「のった。」
『え?』
「協力するわ。」
***がこの街に居続けるとか…そっちに浮かれていて。
・・・・
『聞かなかったことにする…とは?***ちゃんとなにかあったのか。』
「なにも。***がどうとかじゃなくて俺の問題だよ。」
窓を開ければ風とともに雨粒が顔に散る。それでも風呂上がりの体には心地良くて、閉めることはせず背を向け風を受けた。
「俺さ、***に惚れた。」
『え?!』
「プッ…」
どっから声を出したのか マスターのこんな上擦った声は初めて聞く。俺は笑いを堪えた。
『それはそれで問題じゃないか?!』
「なにが問題なんだよ、っつか驚き過ぎ。」
タオルで髪を拭きながらまた暗闇に目を向ける。雨が邪魔するわ、元々ここからクロフネなんて見えねーわなのに、自然と店のほうに目を向けていた。
「だからさ、***のねーちゃんと目的は同じだけど、あの話抜きで俺は動くから。」
窓を閉めても見えないクロフネを見続ける…いや、雨の先に***を見ているのかもしれない。
ヤバ…俺めちゃくちゃ惚れてる…。
自分自身恥ずかしくなった。カーテンを閉めベッドに腰掛ける。
『動くってお前…。』
「惚れたからには傍に置きたいし。…物じゃねーのは分かってるよ。そこは聞き流せば良くね。…ハァ。ハイハイ…。」
揚げ足取るなっつの、マスターって変にジジイくせーんだよな…。
つい呆れちまうが、
「ねーちゃんの企みを変に知ってると、上手くいくもんもいかねーだろ。だから聞かなかったことにしてーの。」
伝えるべきことは伝えた。
『企みって。…いや、俺もあれから考えたけど、やっぱり姉さんの考え過ぎな気がしてな。』
マスターは***がここに越してくることに賛成なのか反対なのか分からない。
たぶん単純にアイツの好きなようにしたらいい…そういうつもりなんだろう。
だけど、
『良し悪しくらい分かると思うんだよな…。わざわざ男から引き離すような真似しなくても…。』
「え?」
良し悪し?男?…
その発言は聞き逃せなくて。
『あ。』
「…。マスターそれ…」
『わ、分かった!聞かなかったことにするんだな!うん、それがいい!じゃあ!』
「おい!…クソ、切るんじゃねーよ!」
・・・・
***のこと、俺はまだ全然知らない。アイツの過去に何があったのか 今どうなっているのか、なにも…。
「…。」
だから、知りたい。
「…会いてー…。」
抑えきれない想いに俺は溢れていた。
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