迷える子羊 (吉祥寺恋色:佐東一護) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

1・同じ空の下

2・手持ち花火

3・いちごちゃんの願い

4・くすぐったい関係

5・holly night

6・迷える子羊

7・

8・空は青濃く純白の雲


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パタン


「ハァ…。」


自分の部屋に戻るなり ベッドに倒れ込んだ。


疲れた…。


クリスマスイブのサトウ洋菓子店は想像していた以上の忙しさだった。休みなく接客し続けた体は鉛のように重く足は棒


おじさんもおばさんも…いっちゃんも凄いな。


ギシ…


仰向けになり、天井に向かって大きく深呼吸をする。


体の疲れもさながら 胸の奥に渦巻くなんとも言えないもどかしさに息が詰まりそうだからだ。


「…。」


さっきの…彼の部屋での出来事


首筋にキスをされた。胸に手も…


思い出せばカァーッと顔が熱くなる。クッションを思わず抱きしめた。…だけど、


『そういうつもりなくて!』


応えなかった私のこと、


『なんもしねーから。まだ帰るなよ。』


「ハァ…」


絶対、怒ってた…。


・・・・


私は経験がない。そういう雰囲気になるといつも怖くなってしまう。


前の彼とも…その前の彼とも別れの原因はそれだ。キス以上を拒めば背を向けられた。


なんで…どうして男の人ってそんなことばっかり…。


別れは悲しい。けれど、結局私のことその程度にしか思っていなかったんだなって割り切っていた。…だけど、


「…いっちゃんもかな。」


いっちゃんは別で。いっちゃんと別れるのは嫌だ。いっちゃんの望むことには応えたい。


「…どうしよう。」


でも…。


こういう気持ち、いっちゃん分かってくれるかな…。




・・・・




「さっむ。」


翌日のクリスマス 昨日同様***はうちの手伝いに来た。今日も忙しくはあったけれど、昨日ほどの多忙さはなく、いつもどおりの時間に店を閉め コイツをクロフネまで送る。


「ごめんね、疲れてるのに。」


「別に。」


空は真っ暗 空気はキンキンに冷えている。それでもまだ 商店街に飾られたツリーの灯りがところどころに光っていて、暗闇を歩くって感じはしなかった。


「明日どっか行かね。」


「え、どこかって?」


「クリスマス、結局なにもしてやれなかったから。買い物とか…なんか食いに行こーぜ。」


店が忙しくてデートらしいデートもしていない。…っつか、俺は結構追い詰められていた。昨夜のことが原因だ。


『…怒ってる?』…


全身で拒まれた気がした。コイツは必死で取り繕うとしていたけど、


もう付き合って半年くらい経つのにそんなイヤかよって思っちまった事実。態度に完璧でていたと思う。


でもよく考えればいきなり過ぎたと焦ってきて。嫌われたんじゃねーのって…だから今日店に来た時、すげーホッとして、


「いっちゃん。話があるの。」


え…


「明日じゃなくて…今、話せる?」


まさか別れ話なんてされねーよな、なんて…。


「寒いけど…タコ公園寄らない?」


・・・・


「話ってなに。」


奥のベンチに浅く腰掛けた。***は隣にそっと座った。


「…昨日のことなんだけど。」


顔見れねー…。


声が白い息になって届く。俺は前屈みになり地面に真っ白い息を吐いた。


「私、いっちゃんに思わせぶりなことを言った。」


思わせぶり…ああ、『今日はそのつもりなくて』の『今日は』の部分だとピンときた。


「それに…『イヤじゃないダメじゃない』って…。ごめん、本当はイヤなの。」


「…。」


ハッキリ言うし…ハァ、マジで別れ話じゃねーの…。


「私…応えられない。…」


頭を抱えたい衝動に駆られる。昨日の俺自身を殴りたくなる。


なんで手ぇ出したんだろ…。


心臓がバクバク言い始めた。だって無理だろ、別れるとかマジ無理


「だから、話をちゃんとしたいなって思って…」


何度となく口ごもり、言葉を探している。俺はどうしようかと縋りつきたいほどの気持ちで、


「いっちゃんはその…なんていうか…」


あーもう、手ぇださねーからマジで別れるとか勘弁してくれって祈った。


…け、ど。


「…せ…性 行為について…どう思ってる?」


「…え?…」


性 行為?え、なんて?え??


思いもしなかった発言に眉をひそめる羽目になって。


「付き合うことに必ずしも必要なものなの?…」


「は…」

コイツの吐く白い息をやっとしっかり目にした時、


「裸で…気持ち悪くない?…」


「はぁぁ…??」


なんのトラウマだよ??


気の抜けた声を真っ赤な頬にぶつけた。泣きそうなほどの潤んだ目に俺こそ目を見開いた。


「私、経験がないの。」


「え…」


え、マジ


「…しなかったら、私のことキライになる?」


「ハァ?!」


ホロッと落ちた涙に思わず抱きしめた。


なに?なんだこれ?なに??


「…ちょ…なんだよ、そんな…キライになるわけねーだろ、なに言ってんだよ…。」


俺が思っているとはまた違う風にコイツは悩んでいたらしい。コイツこそ不安がっていた。


「応えたいって思うの。それなのに、こわいっていうか…幻滅されたらどうしようって…」


「考えすぎ。イヤならいいから。全然いいから。」


腕の中でガキみたいに泣いている。俺はなんていうか…そんな追い詰めたかと胸が痛くて。


「でもいっちゃん、したいんじゃないの?…」


「…。まぁ…そりゃ…でも無理にとか、んなつもりないから。俺のこと考えなくていい。」


「…ゆっくりでもいい?」


「え?」


泣き顔のまま見つめられたら、


「…ゆっくり、少しずつ慣れるようにする。」


…ごくんと思わず喉が鳴った。


「…だから、別れるとか言わないでね…?…」


「言うわけねーだろ。」


ヤバい、マジで可愛くて。


・・・・


「経験なしかー…。」


送り届けた後、帰りながら呟いた。


ビビってたよな今思えば。初めてならそりゃそうか…。


「…。」


顔がニヤける。俺が最初で最後の男って感じ?ヤバ、最高かも…。


小さくガッツポーズするけど、ふと不安にもなっていた。


ゆっくり少しずつアイツのペースで…って、


「…俺出来るか??」


すでに興奮状態 勢い任せになりそうな自分に頬が引きつった。



★END★

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