失恋記念日:23(誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

before

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「お…。」


今日も期待を裏切らねーじゃねーか。


自然と緩む頬。職員室で弁当箱の蓋を開けた瞬間だ。


鶏の照り焼きに高野豆腐に煮物 これは昨日の晩飯アレンジか。


インゲンの辛味噌和えにパプリカの胡麻和え…これは日中に用意してたんだな


ウインナーに卵焼き 今朝の朝飯のあとで作ったやつだ


彩りもボリュームももちろん味も文句のつけようがない。『美味い』と言えば調子に乗るから言わねーけど、だ。


朝バタバタしてる割にはきちんとした弁当作るよな…。


「美味そ。」


手を合わせた時だった。


「いただきま…」


「今日も美味しそうなお弁当ですね。」


ん。


背後からの声にニヤケ顔を慌てて素に戻す。


「いやーそれほどでも…あ、理事長…っ。」


慌てて腰を上げた。振り返れば、理事長…親父だ。


「奥さまはお料理が上手なようだ。羨ましい。」


***の作った弁当を見つめる和やかな笑顔。その手には近所で販売しているホカ弁


それに向かうオレの視線に自嘲な笑みを浮かべる。


「これはこれで美味しいですけどね。」


目尻にシワを残したまま理事長室に向かった。


「…。」


ガタ…


改めて席に腰を下ろし、弁当に合掌する。


「いただきます。」


箸を持ったが、


「…。…」


閉じられた理事長室に視線を向けてしまっていた。


いつもホカ弁だよな…。朝も夜も買ったものか…。


・・・・


当校の教師は既婚者であること、なんていう条件を嘘で固めまでしてクリアし この高校に勤務しているのは、まさに親父が理事長として存在するからだ。


ガキの頃に生き別れた父親


親戚の連中からの余計な情報は母親を捨てたひでー親父像を築いたが、


父親のひととなりを直接知りたいと、正体を伏せ接する数ヶ月 …知り得た情報はそれを覆す。


理事長は自身が新米教師だった頃 生徒と恋仲になった。結婚を望んだが、貫き通したい想いは世間によって引き離される。


幸せになっていて欲しいとただ願う日々


行方知らずの彼女が天に召されたと知った時は随分と自暴自棄になったと…


「…。」


実はガキがいた、なんて事実を知らされることもなく。


理事長は独身を貫き通している。もうあんなに愛する女性はいないからと、忘年会の時に酔っ払って話したよな。それを聞いて、


オレのなかで特別な感情が芽生えたのは否めなかった。


その女性がオレの母親だとは言っていない。そして、オレがあなたの子どもですとも。


伝えるべきか 伝えるならどのタイミングか


まだ決意も固まっていない。ただ、


「…大丈夫かよ…。」


ちゃんと飯食ってんのか…?


上司としてではなく父親として生活面 特に食事面が心配だった。


オレが弁当作って渡すのはおかしいよな…。


***が作った弁当を食いながらおせっかいが顔を出す。


***に頼むか…いや、そっちのがおかしいだろ。偽嫁にそこまでさせんのかよ。


「…。」


だけど***は作ってくれそうな…。でもなんて頼むんだ?理事長のも頼むって?実は親父でー…って、


「…ご馳走様でした。」


いやいや、おかしいだろ。


ピーマンとしらすの手作りふりかけは絶品だなと感心しつつ、スッキリしない胸の内と空っぽの弁当箱に蓋をした時、


「先生方、今夜はお願いします。」


教頭の無駄に通る声が職員室に響いた。


今夜?今夜ってなんかあったか?


んな疑問が顔にでたんだろう。教頭がオレに嫌味っぽく目を細め、


「入学して数ヶ月、学生たちの気が緩む時期です。繁華街のパトロールをお願いしますよ!」


ゲ、そうだった!


頬が引きつるオレに口角を上げる教頭


「しっかり頼みます鴻上先生。」


「ハイ…〜…。」


マジで相性悪ぃ。


・・・・


「タダイマ…。」


帰宅したのは23時を回っていた。頭上を照らす照明 シーーンとした玄関にオレの声だけが響く。


それでも廊下の向こうリビングは明るい。一人暮らしの時にはありえない光だ。


「ふー…。」


ガチャ…


そして寝室のドアが内側から開くのも。


「悪ぃ、起こしたか。」


「ううん。」


足首まで隠すストンとしたワンピース型のパジャマ姿。この格好をしたコイツを見るとオレはどういうわけかいつもゆったりとした気分になる。


「ウトウトしてただけ。おかえりなさい。」


瞼を擦りながらも口角の上がった口元に微笑み返しちまう…なーんか、…なーんか。

「悪かったな、急に飯要らないなんて。パトロール後に同僚が飯食おうって誘って来てさ。」

ゆったりとした空気を醸し出す***は オレの話を微笑み頷きながら聞く

「なー、今日飯なんだった?」

「生姜焼きー。」

「チューブじゃねーだろうな?」

「ちゃんと擦ったってば。」

「ホントかぁ?っつか、教頭があっちもこっちもって人使い荒ぇーのなんのでさ、」

寝かせてやりたいのに ベラベラ喋っちまう。空の弁当箱をシンクに置きながら。『美味かった』って言ってやればいいのにそれは言わずに。

言わない本当の理由は調子に乗るから、じゃない。どういうわけか…どういうわけか、だ。

「マジ疲れた。あ、でも今日行った焼き鳥屋が絶品、つくねがすげー美味ぇんだ、今度行こうぜ。」

眠たいコイツを引き留めいつまでも。

「特に変わったことなかったか?」

いい加減眠たいだろうにな。

「変わったこと…あー…あ、大和なにか飲む?お茶飲む?」

キッチンに来ようとするからやっとそこで***と自分自身を引き止めた。

「いやいい。風呂入って寝るわ。起こして悪かった。」

名残惜しくても。

「…そ?」

「ああ。おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

…パタン。

…もどかしくても。

…もし、この時***の話を聞いていたら オレはどうしたかなと思う。そして

「あー…疲れた。」

オレがどう言おうと…お前はそうしたんだなと思う。

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