失恋記念日:5 (誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

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「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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「だろ?」

 

「…。」

 

知らない仲じゃない…彼のその発言に顔が強張る。そして同時に冷めた感情が全身に広がった。それは

 

「やめて。」

 

氷のように随分と冷たい声になり彼を突き刺した。

 

「二度とその話はしないで。」

 

睨み付ける…けれど、彼の視線が 両膝の上 重なる私の手に移った時、気づかれたかもと思う。

 

「忘れたいの。」

 

震えていたこと 分かったと思う。

 

やっぱりただの男だ…。

 

ずっと怖かった。体を許した相手なのになんて?二度も三度も同じでしょなんて?そんなふうに割り切れたら楽なのに。

 

奥さんのいる人にはなにもかも捧げるバカな女のくせに…だけど、

 

久仁彦おじさんの知り合いだろうが、彼がたとえ良い人であろうが…私はこの人に恋なんてしてない。

 

「だからアナタも忘れて。」

 

好きでもない人に無意味に抱かれる気なんて持ち合わせていないから。

 

「…。」

 

お互いを見つめるこの距離に重い空気が流れる。もしかしたら彼は冗談のつもりだったかもしれない

 

けれど受け流せない 真に受けて、唇まで震え始めて 私ってばこんなに 繊細な女だっけって自問してしまう程で。

 

ハァ…。

 

涙を落とさないよう震える拳にギュッと力を込める。

 

一度男女の関係になった二人が、ひとつ屋根の下なんて無理 夫婦のフリなんて、無理。

 

そう言おうとした時だった。

 

「お前、朝はごはん派?パン派?」

 

場違いな発言が耳に届く。

 

「…え?」

 

ハッと顔を上げた。

 

「どっちだよ。」

 

なに…。

 

歯を見せニカッと笑う。まるで宥めるように 落ち着いた優しい声で。

 

「どっち?」

 

その笑顔にフッと力が抜けたのは

 

「…パン…」

 

「そうか。近所にすげー美味いパン屋がある。朝一行ったら最高に美味いクロワッサンが買える。」

 

拍子抜けしたっていうか…。

 

「明日の朝、買いに行こうぜ。…んな、ぶぅたれた顔すんなって。」

 

顔を覗き込むようにする笑顔に…変なの ある意味憎き相手なのに、なんだか泣きそうになっちゃって。

 

「ぶう子って呼ぶぞ。」

 

・・・・

 

「あ、それと、アナタじゃねー。大和。やーまーと。名前で呼べ。」

 

指をピストルのような形にし、はにかんだように笑う大和

 

「お前はぶう子な。」

 

「え、なんでよ!」

 

上手くやっていける…のかな。

 

 ・・・・

 

「あわわ…。」

 

「雨予報だったけど晴れたな。よし、行くぞぶう子!」

 

「だからやめてよ、その呼び方…。」

 

翌朝 8時の開店に間に合うようにと朝早く起こされ共にマンションを出た。

 

昨夜はあれから、自己紹介たるものをしながらこれからの予定というか計画というか そういったものを話し合って、

 

「え、私、寝室使って良いの?」

 

「オレはソファで寝るから。」

 

なんて変な優しさ見せられて。

 

「案外爆睡しちゃったな…。」

 

「あ?なんか言ったか?」

 

心地良い風に頬を撫でられながら陽射しに目を細める。

 

「ホントに美味しい?」

 

「すげー美味い。クロワッサンなんてパリパリのふわふわで、」

 

「お先!」

 

「おい、お前場所知らねーだろ!」

 

笑いながら小走りしちゃう…この時は、大和との偽装結婚、やり遂げそうな気がしていた。

 

 

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