★教えてteacher:15 (誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

before

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「どうしたんだ、一体。」

 

ため息交じり 久仁彦おじさんがグラスにビールを注いだ。

 

「久仁庵に泊めてくれだなんて。大和とケンカでもしたのか。」

 

私はあれからマンションに戻り無心でシャワーを浴びた。それから取り急ぎ必要な物をバッグに詰めた。

 

パタン

 

部屋を見渡すことはしなかった。とにかく感情を無にし するべき事だけをして部屋を後にする。向かった先は

 

「もう少し遅かったら帰ってたぞ。で、何があったんだ。」

 

肉親…久仁彦おじさんのところだ。

 

おじさんの家は別にある。都会の真ん中一等地のタワーマンション。久仁庵の二階はおじさんが時に寝泊まりをするだけの場所だから常に空いている。

 

だから迷惑をかけることは無いだろうと…でも理由は話さなければならなかった。

 

「***。話してみろ。」

 

カウンター席の私を前に カウンターの向こう 椅子を置き腰を下ろす。立ち話じゃ済まない。私の様子を見てそうしなければと思ったんだろう。

 

「…。」

 

何から話をすれば良いのか…。だけど久仁彦おじさんは分かっていた。

 

「アカリか。」

 

ハァ…。

 

その名を口にされ 私は今日 初めて泣いた。

 

・・・・

 

「…駅に、行ったの。今日、大和さんとアカリさんが会う場所に行ったの。」


私はしばらくしゃくり上げて口が利けなかった。ビールを何口か飲んで何度か深呼吸をして…そうしてやっと話が出来た。

 

「大和さん、嬉しそうでね。アカリさんを抱きしめて離さないの。ずっとずっと抱きしめてるの。」

 

それでも嗚咽が混じって掠れて言葉が途切れ途切れになる。きっと久仁彦おじさんはとても聞きづらかったと思う。

 

「すごく切なそうな 泣きそうな顔をしてね。…私、あんな大和さん初めて見た。」

 

悲しみに溢れた喉から 振り絞って声を発した。

 

「私は、アカリさんを越えられない。」

 

・・・・

 

あの時の二人の姿が面影としてずっと目に残っている。

 

『…。…』

 

強く抱きしめ離そうとしない大和さんはその強引さとは裏腹に すごく弱々しい男性のように見えた。

 

アカリさんは彼の腕の中離せ離せと笑う。やっと距離を開ければ彼女は彼の顔を覗き込み茶化すようにまた笑った。

 

何年経とうと大和さんの心に存在し続ける人

 

皆が口々に言うように 大和さんが自分自身で自覚しているように 未来まで捧げた人だ。

 

『…会えて良かったね、大和さん。』

 

また心を掴まれたんだね。

 

しかめっ面とも泣きっ面ともつかない 少年のように見つめ返すアナタは。

 

『…。』

 

 

その場で私が泣かずに済んだのは二人の背景となる噴水の虹色の水飛沫が凄くキレイだったから。

 

『キレー…。』

 

・・・・

 

「大和さんの恋の終わりを願うような女にはなりたくないの。」

 

涙がぐっと込み上げまた声が詰まる。それでも無理に笑おうとした。なんとか笑おうとした。

 

「だって…、だって私、大和さんにすごく大事にして貰えたから。しあわせになって欲しいの。だから…」

 

決して彼と過ごした日々を後悔はしていない

 

まだ大好きだから、後悔はしない。

 

「…だからもう、終わりにするね。」

 

・・・・

 

「…ハァ…。」

 

空きっ腹にビールが効いたのか それとも泣き疲れたのか。私はカウンターに顔を伏せ気づいたら眠っていた。

 

~BBB~…

 

…電話…。

 

カウンターに置いている携帯の震えが頬に伝わる。重い瞼をゆっくり開けたけれど 手に取るまでは出来なかった。

 

カチャ…

 

ピクリともしない私を見るに耐えたのか それとも元々そのつもりだったのか 久仁彦おじさんが携帯を手に取る。

 

「…。…」

 

それをぼんやりと視界に映し 私はまた目を閉じた。

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

 ガチャ

 

「タダイマ…。」

 

あれ…

 

玄関を開けた途端の違和感に眉を潜めた。

 

「真っ暗じゃねーかよ…。」

 

***寝たのか?随分早ぇな…。

 

廊下を進みリビングの照明を灯す。スーツを脱ぎながら寝室に向かった。

 

…ガチャ

 

「ぶう子〜…タダイマ…」

 

え?

 

「は?」

 

無人のベッドに一瞬呆然と立ち尽くす。けど、

 

「ぶう子…?」

 

すぐに風呂場に向かう。けどいない。

 

「おい、ぶう子、トイレか?」

 

コンコンコン …ガチャ

 

いない…。

 

「は??」

 

どっかに隠れてんじゃねーかと一瞬思う。だけど 誰もいない 気配がない。

 

「何処行ったんだ…」

 

コンビニ?に、行くにしちゃぁ遅い時間だろっ

 

携帯を取り出し ***から着信もない受信もない それを確認してから電話をかけた。

 

「どこほっつき歩いて……あ、もしもしぶう子?お前今何処に…」

 

『もしもし。』

 

え…

 

「…久仁さん?」

 

慌てていたのは確かだ。かけ間違えたのか…何してんだオレは…。

 

「悪ぃ間違えた。***にかけようとしたんだ。」

 

ソファにドサッと腰を下ろしため息をついた。

 

「ごめん、切…」

 

『いや、間違えてない。代わりに出てる。』

 

「は?」

 

『今一緒にいる。』

 

帰ってきてからオレは何度疑問符を使ったか。それでもまだ使わなきゃならなかった。

 

「なんで***が出ねーんだよ?一緒ってまだ久仁庵にいんのか?」

 

疑問符だらけだ。

 

『今夜はお前がいないって言うから閉店後にうちに連れて来たんだ。酒飲んだら寝ちまった。』

 

「うちってマンション?」

 

『そう。』

 

「そうなのか…すぐ迎えに行くよ、住所教え…」

 

『来なくて良い。』

 

「は?」

 

『今夜はここで寝かせるから。』

 
は…。
 
…別に久仁さんの声の調子がおかしいとか言い方がどうとかそういうことに違和感は感じなかった。
 
ただ、オレの都合だなんだより 端から***を帰らせる気がない。その一方的な突きつけに眉を潜める。
 
マンションが何処にあるのか知らねーけど都内だろ、大した距離じゃねーのに迎えに行っても構わねーだろ…。
 
『明日は店も休みだしゆっくり寝かせておく。お前も休みか?』
 
「…夏休み前だから補習があって出なくちゃならねーけど…」
 
『そうか。伝えとくわ。』
 
「…。久仁さん、***は起きる気配…」
 
『起きないな。じゃな、おやすみ。』
 
「久仁さん!」
 
プツ…
 
「切ってんじゃねー…!」
 
なに?なんだよ??
 
疑問だらけの電話の内容に胸がモヤつく。
 
「なんなんだよ…。」
 
ソファに凭れ天井に向かって大きく息を吐いた。
 
一人きりの部屋はやけに殺風景で味気ない
 
「…ハァ。…」
 
なんで居ないんだよ…。
 
***が急に遠い存在に思えた。
 
 
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