★教えてteacher:14 (誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

before

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「随分急いでるんだな。」

 

定時キッカリ、エプロンを外し帰り支度を急ぐ私に久仁彦おじさんは笑う。

 

「まーねー。」

 

「大和とデートか?」

 

けれどこの急ぐ理由を話すわけにはいかない。なぜならとてつもなく恥をさらす事になるからだ。

 

「…違うけど、ちょっとね。じゃ、お疲れ様~。」

 

「明日日曜だぞ、間違えて来るなよ~。」

 

日曜日が定休日ってやる気無いよねと思いながら は~い、と返事をし すぐさま久仁庵を飛び出す。

 

急がねば…!!

 

バス停に向かって走った。

 

もう夕暮れ近いというのに まだ陽は高い。蝉の鳴き声が横から上から降ってくる。

 

「あ、乗ります!すいません!」

 

私は駅に向かっていた。

 

「ふぅ…。」

 

危ない危ない、乗り遅れそうだったし…。

 

18時 大和さんとアカリさんが待ち合わせる場所へ向かっているのだ。

 

・・・・

 

「うーん…。」

 

昨晩 大和さんの抱き枕になりながら思った。

 

アカリさん…ボンヤリとした輪郭は黒い影どころか真っ白い光のように遠くに佇む。

 

大和さんが愛した人…見てみたいな…。

 

佐伯さんが言っていたように 男女のアレコレがあるかもなどと疑っているわけではない、そういうのはお陰様で全く無い。

 

ただ純粋に…そう、純粋に彼女がどんな女性なのか見たいと思った。かと言って会う覚悟は持ち合わせていない。そうつまり、覗き見をするために行くのだ。

 

やってることサイテー、私ってばホント情けないというかダサいというか…。

 

こんな行動大和さんに知られたら呆れられるのは確実だ。呆れられるというより軽蔑?ストーカーかよってドン引きかもなぁ…。

 

「…恥ずかし。」

 

でも女ってそういうものだよと開き直る。好きな人の心を奪った人に興味が無いわけがない。

 

「…。」

 

座席に凭れ 流れる街並みに目をやる。

 

ミス麻布かぁ…キレイな人なんだろうなぁ…。

 

走ったせいもあるんだろうけど 胸がゆっくりとでも確実に鼓動を早めていた。

 

良いじゃん見るくらい。ちょっと見たい、くらい…。

 

「バレないようにしなきゃ…。」

 

大和さんに見つかるわけにはいかない。私はバスの中で黒縁のダテメガネをし キャップを深く被る。

 

「…よし。…。」

 

・・・・

 

「…ふぅ、間に合った…ギリギリじゃん…。」

 

停車地に到着したのは18時15分前。

 

この駅は駅前が噴水広場になっている。中央の大きな時計台を囲むようして拡がる憩いのオアシス

 

いつもは学生や帰りを急ぐサラリーマンが行き交う場所だけれど今日は土曜日 家族連れや若いカップルが多く見られた。

 

傾き始めた太陽のせいで青空は紫色に変わり 街は薄い橙色に染まり始める

 

蝉の鳴き声は雑踏にかき消され 賑わいに姿を消した。

 

「…。」

 

結構待ち合わせしてる人多いな…わ、10分前だ、大和さん、何処だろ…あ…。

 

バッ!!

 

案外、近いところに居たぁ…。

 

私はすかさず隠れた。改札口を背にした駅の入り口というのか出口というのか 図太いコンクリートの柱に身を隠す。

 

わぁ…ビックリしたぁ…。

 

チラッ…と、顔を覗かせ 間違えなく大和さんだと確認し

 

さすが教師、10分前行動完璧…。

 

なんて感心しながらも

 

「…かっこいい…。」

 

魅取れる私って。

 

大和さん目立つなぁ…。

 

雑踏のなか パッと目を引く長身の男性

 

スーツ姿だからだろうか スッとしたその立ち姿は近寄りがたくも感じる。けれど髪を無造作に掻き上げる仕草はどこか隙があって、

 

「すいません。」

 

「あ。…」

 

年配の女性が大和さんの元に向かう。どうも道を聞いているよう 大和さんは耳を傾け 辺りを見渡し 何処かしらに指を指す。

 

フフ、話掛けても許されるそういう雰囲気あるんだよね。

 

頭を下げ合い 女性の背を見送る大和さんは近寄りがたくもあるが声をかければ応えてくれる親しみやすい雰囲気も持っていた。

 

「ナンパとかされやすそ…。」

 

笑ってしまう。そして少しハッキリとした声であれば聞こえる距離に私はいると確信した。

 

「…もうすぐ来るかな…。」

 

アカリさん…そろそろ時間…。

 

大和さんの背後 噴水が規則正しく 時に踊るように吹き出していた。その水飛沫はライトアップされた光の演出でキラキラ輝く。

 

日が暮れてきた…光る霧となって大和さんの背後を染めるけれど 彼はその演出に見向きもせず 一度だけ時計台を見上げすぐに手元の携帯に目を落とした。

 

「…アカリさんにメールしてるのかな…。」

 

そう呟いた時

 

「わっ…」

 

私の携帯こそが鞄の中で震えているのを感じて。

 

あ…

 

慌てて取り出せば まさに大和さん…。

 

『駅に着いた。今から会うよ。』

 

…ああああ…。

 

柱に隠れ 顔を真っ赤に染める。私に、なんだ、私のこと考えてくれているんだ…。

 

胸がチクチク痛かった。それは目の前の大和さんへのときめきでもあったし このダサい行動への背徳感でもある。

 

周りから見れば気持ちの悪い女だろう。柱に隠れチラチラと顔を出しながらニヤついたり頬を真っ赤にしている。

 

「ハァ…。」

 

なんかもうアカリさんとかどうでも良くなっちゃったな…。

 

こんなに大和さんに想われてるのに私は興味だけで覗きとか…。

 

「…情けない…」

 

ブツブツ言っていた時だ。

 

ワァッ

 

「え?」

 

歓声が沸く。周囲の人達の視線の先を追う。

 

わ…

 

そうしたらさっきまで単色のみに染まっていた噴水が 虹色に染まっていた。 飛沫を上げて落ちる水はまるで色とりどりの花びらのように鮮やかに降り落ちて、

 

あ、18時?!

 

時計台を見上げすぐに大和さんに視線を移す。その時だった。

 

「大和!!」

 

え…

 

名を呼ばれ 大和さんがそちらを向く。私もだ。そして

 

「…っ…」

 

駆け寄る女性…あの人がアカリさん…。

 

私の胸はドクンと音を立てた。

 

「久しぶり!」

 

え?

 

アカリさんが大和さんの胸に飛び込む。それはまるでスローモーションのように自然にだった。一瞬、ああ、外国風ねって思ったけど

 

…ウソ…。

 

目の前の二人に私は呆然とする。二人…いや、大和さんにだ。だって

 

なんで…?

 

大和さんは 彼女を引き離すどころか 思い切り抱きしめ返したから。

 

 

 

・・・・

 

 

 

「…綺麗な人だったな。」

 

帰りのバスのなかポツリ呟いた。どんな風にバス停に向かっていつ乗ったのか覚えていない。気づいたら

 

すっかり陽は落ち 窓から見える景色は暗く 数人しか乗っていないこのバスの一番後ろの席で力無く凭れていた。

 

満面な笑顔で駆け寄ったアカリさんは

 

…キレイなひと…。

 

第一印象として それだ。

 

細身のジーンズにラフなTシャツ 決して着飾る何かを重々しく身につけているわけではないのに 凄く輝いていた。

 

笑顔が愛らしい 照れくさそうに、でも思いっきり笑うその笑顔が凄く可愛くて、

 

大和さんと向かい合ったその瞬間 まるでドラマ?芸能人みたいな二人 ドラマのワンシーンを観たかのよう。

 

佐伯さんの言うとおりだ。男女のアレコレ…か。

 

「…しんど…。」

 

大和さんからの受信メールをぼんやりと見つめた。

 

『駅に着いた。今から会うよ。』・・・

 

「…。」

 

返事は返さなかった。

 

 

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