きみにゆらり:3 (吉祥寺恋色:Short:佐東一護) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

ケーキ食べたい…。

 

before

 

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「あっのクソ男!絶対許さない!!」

 

クロフネに戻ってから私の感情は爆発した。

 

なんでキスした?なんでキスした?!意味分かんないホントキライ!!

 

何度も何度も枕を殴り喚き散らす。

 

勢いだったのかなんなのか 動機は不明のままファーストキスは奪われた。

 

「クソ一護!!」

 

絶対許さないんだから…!!

 

バフッ

 

「ハァッ…」

 

この夜 一睡も出来なかった。時間が経てば経つほどキスをされたということより どうしてしたのってその理由を知りたくて。

 

切ない…私のこと好きでもないくせになんで??

 

「もう…っ…」

 

明日どんな顔して会えば良いの…。

 

・・・・

 

「あー緊張する…。」

 

通学時から心臓がうるさかった。

 

私が悪いわけではないのに隠れるようにして周囲を見渡す。

 

とは言っても 一護ちゃんとは同じクラスだし席は隣だし逃げようがない。

 

教室のドアを開ける時 どれだけ緊張していたか。

 

カタ

 

ビクッ

 

一護ちゃんが席に着いた時 どれだけカァーッと体が熱くなったか…。

 

私はとにかく彼を視界に入れないようにしていた。

 

頬杖ついてそっぽ向いたり 机に顔を伏せ寝たふりしたり…。

 

「…。」

 

桜が見たい…。

 

もう舞いとも呼べない花びらの数だろうと今年最後の舞いを見たいと思っていた。

 

だけど無理。横顔が視界に入る。

 

目を閉じても到底夢にはならなかった図書室でのキス

 

私はホントに…今日一日中気が気じゃなかったんだ

 

それなのに。

 

「消しゴム貸して。」

 

「…。」

 

この男ホント…。

 

「早く。」

 

どういうこと?無神経過ぎない?

 

一護ちゃんの様子に全く変化は見られなかった。いつものように図々しく手を伸ばす。

 

「…ハァ…」

 

怒り通り越して呆れる私 なんだか疲れる…。

 

「…どうぞ。」

 

「サンキュ。」

 

少し触れた指先にも意識しちゃう私なのに。

 

・・・・

 

「ハァ…。」

 

さっさと帰ろ。帰って寝よ…。

 

放課後にもなると 昨夜眠っていないことに加え一護ちゃんとの温度差に変に疲れて私はクタクタだった。

 

取り越し苦労ってやつだ。もう気にするのやめよ…

 

ガタ

 

もう忘れよう…。

 

すぐに帰り支度をし早々に席を立つ。

 

あー甘いもの食べたい お風呂入りたい 眠たい…

 

友人たちにハラハラと手を振りつつ教室を出ようとしたわけだけど

 

「***。」

 

「え?…っ…」

 

ドキン…

 

一護ちゃんに呼び止められて。

 

彼とまともに目を合わせたのは今日初めてだった。

 

一日中ほぼ顔を背けていた 消しゴムを貸した時こそチラッと視線を向けたけれど大して顔は見ていない

 

「お前今日付き合えよ。」

 

「は…。」

 

だからもう…目を合わせた瞬間に心臓がヤバくて

 

「え、ちょっと!」

 

指が触れるどころか手をギュッと掴まれれば ボン!と顔は真っ赤に染まって。

 

「走るぞ。」

 

「ええ??ちょっと、ちょっとぉ!!」

 

廊下でも下駄箱でも門を出る今も

 

「おせーよ、歩いてんじゃねーよ。」

 

「走ってるってば!!」

 

ずっと掴まれていた。ずっと繋がれていた。もう心臓がバクバクいってどうしようもなかった。

 

「ね、ねぇどこ行くの?」

 

「女としか行けねーとこ。」

 

「…へ?」

 

ニヤッと口角上げるのやめて。

 

・・・・

 

「ここ…?」

 

「ああ。一度来てみたかったんだよな。」

 

一護ちゃんに連れてこられた場所は駅前のシティホテルのパティスリーカフェだった。ここはスイーツの大人気店。雑誌にもちょくちょく出ている有名店だ。

 

制服では不釣り合いではないかと思いはしたけど 店内は案外カジュアルで。

 

通りに沿っているからだろうか 若い子も多い。皆上品にアフタヌーンティーを楽しんでいた。

 

そもそもワイワイガヤガヤしたい子はこういうホテルには来ない。私たちもシャンと背筋を伸ばせば特に場違いということも感じず 席に着けた。

 

「綺麗…」

 

シティサイドとは反対側を案内された私たち。手入れのされた中庭を見渡せるテーブルには自然と頬が緩んで…しかも

 

「あ…」

 

桜…。

 

最後の舞いには心も緩んで。

 

「お待たせしました。」

 

テーブルにセットされた紅茶は注がれた瞬間から茶葉の香りがする。一護ちゃんのコーヒーも美味しそう…けれど

 

「え…」

 

目の前に置かれたショートケーキに目は釘付けになった。

 

「国産アップルマンゴーを使用し豆乳クリームを使って軽やかな口溶けに仕上げております。」

 

丁寧な説明にも感動するけど

 

「うわぁ…」

 

あまりにも豪華で美し過ぎるケーキに…っていうか

 

「いつ頼んだの…?」

 

「お前が桜に惚けてる時。食えよ。」

 

「え、良いの?」

 

「なんのためにお前を連れて来たと思ってんだよ。」

 

何を隠そう私はケーキに目がない。もう瞳がキラキラしちゃったのは隠せない。

 

「すっげぇ評判良いからどんな風なのか興味があった。でも俺甘いもん苦手だし。」

 

なるほど、それで女としか行けない場所、か。

 

「パティシエっぽいこと言うじゃん。」

 

「うるせ。早く食えよ。」

 

確かに男の人一人ではなかなか食せないかもと

 

「いただきます…」

 

感動の一口目はそれこそ

 

「…美味しい…」

 

目眩がしそう。

 

美味しい〜!!

 

・・・・

 

「…やっと笑ったな。」

 

え…

 

美味しい美味しいといちいち口にし頬を押さえる私を笑いながら見ていた一護ちゃんだけど

 

「今日一日中、すげー気ぃ使わせたろ。」

 

あ…

 

カチャ…

 

思わず途中でフォークを置く。キスのこと、言ってるんだってすぐに分かった。

 

「…気にしないで。相当腹は立ったけど。忘れるから。」

 

そう俯けばフォークにスッ…と一護ちゃんの手が伸びる。

 

「ああ。ま、でも俺は、」

 

そして一口分ケーキをさして

 

「絶対忘れねーけど。」

 

パクっと口にし 美味いじゃん、と笑った。その笑顔と言葉に

 

ドキ…

 

「…。…」

 

胸が熱くなった。

 

 

next

 

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