最初は一護が熱のパターンを描いていた。
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「寒っ」
***の部屋に顔を覗かせた瞬間の感想はそれだった。
だがエアコンに目を向けても動いている風ではなく、室外機が微かに音を立てているだけで。
「熱が上がって暑いもんだから***ちゃん途中で温度を下げたんだな…。」
「なるほど…」
ジョージさんが今切ったらしい。参った顔をしながら一護に体温計を手渡す。
「***最近体調悪かったの?」
「いや特に気にならなかったが…。ただ寝る時によくエアコンを消し忘れるんだ。寒さで起きるって言うから夏風邪を引くから気をつけなさいとは言ってたんだけどな。」
試験勉強中にウトウトしてそのまま…最近の寝不足も有り 体力が落ちていたか。
「そか…。」
一護は***の顔の位置で膝をつけ声を掛けていた。入口に立つオレ達からすれば一護の背が邪魔して***の様子は見えなかったが
「***、熱計ろうか。腕上げるぞ。…」
…なんというか
「ごめんな 関節が痛いんだな。すぐ終わるからちょい我慢な?…」
…なんて言うんだろうな
「…よし。腕下げて良いよ。ちょっとジッとしてよーな。…」
とにかく驚いた。だって一護が随分と優しく接していたから。こんなに穏やかな声をだすのかとこんなに優しい言葉をかけるのかと
ピピ
「ん、ちゃんと計れたよ。…。…」
コイツの溢れるほどの優しさに驚いたんだ。も、だし、
体温計に目を落とし 振り返ることなく 腕だけを背後に伸ばしてジョージさんに手渡す。
「起こしてごめんな。…うん、しんどいな。大丈夫寝てな。…大丈夫大丈夫。…」
一護のその言葉に熱は大したことないんだろうとオレ達まで思わされた。だけど
「車、出してくる。」
ため息混じりのジョージさんから体温計を受け取り見れば…ええ??
「39.8ってどうなの…」
二度見してしまうほどの高熱で。
どおりでジョージさんが頬を引きつらせながら階段を駆け下りたわけだと
おいおいおい…。
オレ達こそ焦った。そして一護はスゲーなと思った。
本人を不安がらせないよう自分は冷静を装っている 慌てる様子を全く見せないコイツが
「…かっけーな、おい…。」
剛史が思わず呟いた言葉まんまだ。
「一護、なんか要るものあるか?」
オレと剛史は入口で一護と***の様子を見守るだけだったが
「ああ…ちょっと頼みがある。」
一護はチラッと振り返ってからオレ達を呼んだ。
「俺がコイツ抱えているあいだ、この肌布団ベッドに内側で拡げてくれる。包み込むから。」
「…分かった。」
いそいそと傍に行く。チラッと***の顔を見ると
「…お前大丈夫かよ…。」
顔はもう真っ赤 目を固く閉じ眉間にシワを寄せ呼吸は荒く大きい まるで息つぎをしているようだった。
体を縮こませ震えている様子にそりゃこんだけ熱が出ればと気の毒になる。
多分店にいる時頭痛は相当だったんだろう ベッドに横になることで気が抜けたか一気にくたばっている…だか一護はそんな様子を目の当たりにしていても
「***、ちょっと動くからな。…良いよ、そのままで。…」
穏やかな口調を崩すことはなくて。
体に巻きつけている肌布団をソッと剥ぐ。***は一瞬でも温もりをはぎ取られた事で更に体を縮こませた。それに対しても慌てることは無く ***の首と腰の下に腕を回しゆっくりと抱き抱え
「今。」
「ほい。」
バサ
オレ達に的確な指示を出して。オレ達はタイミングを逃さず肌布団をベッドに拡げることが出来て。
「寒いな。ごめんな。…」
一護は拡げた肌布団にそっと***を下ろし まるで蚕のように包み込んだ。そして温めるように抱き抱える。
「なんか他に出来ることある?」
オレと剛史こそ頼りっぱなしって感じだ。
「ハル、水を飲ませたいから用意しといて。ストロー挿してな。タケは洗面所行ってタオル持ってきて。出てすぐの右側。」
「了解!」
階段を降りるオレのうしろ 布団に包まれた***をお姫さま抱っこした一護が降りてくる。
「***ごめんな 少し揺れるからな。…」
そのあいだも
「気分悪いか?大丈夫?…ん…」
優しい言葉が途切れることは無かった。
・・・・
「大丈夫かな***…。」
「うん…。」
ジョージさんの運転する車のテールランプをオレと剛史はしばらく見送っていた。
「しかし一護スゲーな。」
「見直した。」
ジョージさんの車が横道に到着するまで一護は店でずっと***を抱き抱えていた。
「水飲める?…ん、しっかり飲めよ。…良いよ無理しなくて良いよ。…」
オレが差し出したグラスに入った水。一瞬目を開け口にした***だがすぐにストローを口から外し一護の胸に顔を埋める。
「寝て良いよ。…大丈夫、寝て良いよ。」
トン、トン、トン…っと ゆっくりとしたリズムで***の背を叩いている
手だけを使ったその静かなリズムは***を安心させるようで 顔を見れば***はすっかり眠っていて。
「寝たね…」
「ああ…。…」
待っているあいだ何度も一護は様子を伺っていた。何度も***の額に頬を擦り付けていた。
時にその額にキスをする。車はまだかと窓の外を見てはまたキスをする その繰り返しの様子に
「なぁんか…愛を感じたなぁ。」
***への愛おしさ溢れるものを見た気がして胸熱くなったり。
「一護らしいって言えばそうか。」
剛史がクスッと笑う。オレは頷き
「大事な彼女だからな。」
ある意味アイツらしいと感じ。
・・・・
数日後 いつもの調子でクロフネでのんびりするオレ達。
「***〜。」
そして毎度のごとくダルそうに一護は***を呼ぶ。
「なに、いっちゃん。」
隣に座れと手招きをすれば首を傾げながら***は座った。
「よっ…と。」
「…なに。」
ゴロンとソファに横になり膝枕を強請るコイツはいつもの一護だ。
「もー。お店手伝わなきゃなんないんだけど!」
困り顔の***と満足げな表情の一護にオレと剛史は思わず笑う。オレ達は常々こういう自己中なコイツしか見ていなくて振り回される***を気の毒に思ったりもしたわけだが、
あの日を思い出すとこの感じはコイツらの一場面でしかないんだなと知ったわけで。
「ダテに彼氏してねーんだよ…ってな。」
「あ?ハル、なんか言ったか?」
「いや別に。」
いつでもどこでもどんな状況でも 一護は***の彼氏
***は一護にとって大事な大事な彼女ってことだ。
★END★
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