湿邪に体力奪われる…。
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「…ん…」
瞼を閉じたままだとしても 体に怠さをあまり感じなかった。
暑ぃ…
汗をかいている…熱が発散出来てる それで楽なのかも
少なからず店先でぶっ倒れた時に比べたら全然良くて
「…ハァ…」
熱下がったかもと…ゆっくりと目を開けた。
「…っ…」
なに…
すぐに目が眩む。真っ白い天井と冷たい蛍光灯の眩しさが強い光になって突き刺してきて
眉を潜め…ゆっくりと眼球を動かした。
…そうしたら
「あ、佐東さん…!」
え?
傍に座る女…。ホッとしたような笑みを浮かべ俺を見おろす姿に
「…っ…」
植野?なんでコイツが…?…
心底驚く。だけどすかさず伸びた手 避ける間もなく
「良かった…顔色、よくなりましたね。」
タオルで額の汗を拭かれ
「…うん。お昼ほど熱くないです。」
手を当てられ…。
「…なんでお前…」
呟く様な声は届いたか分からない。ただコイツのその時の手が
「…。」
冷たくて…すげぇ気持ち良くてまだうつろな俺はまた瞼を閉じそうになって。
なんで…。
・・・・
妙に静かで でもどこか緊迫した空間
消毒液の匂い 遠くに聞こえる機械音…植野の背後の白いカーテンと 真っ白いシーツの上 寝かされているこの状態に
ここが病院だって事をすぐに理解した。
だけど
なんで植野がいんの?
そんな疑問のせいでコイツをただ見つめ続ける。植野はホッとしたような笑顔で俺を見つめ返し
「診察室でなに聞かれてもぼぉ~っとしてるから 本気で心配しましたよ。熱、39度越えてたんですよ?」
俺の前髪あたりをそっと撫でて…。
「看護師さん呼んできますね。」
微笑みながらイスから立ち上がる。そして躊躇なく俺の首筋の汗をタオルで拭き
シャッ
「…。」
カーテンの向こうに消えた。
なんで…あ。
散々疑問符が飛んだ後 記憶が蘇る。
店先に座り込んだ俺に高木さんがすっ飛んで来て
『どーした佐東~。おーい。』
『止め…』
気分悪ぃのに肩揺らされまくって
それからなんだかんだとスタッフが騒ぎ…俺はタクシーに乗せられた。
一人で行けるって言うのに 高木さんが植野をタクシーに押し込んだんだよな…で?コイツずっとここに?
「…ハァ…」
右腕に点滴の針が刺さっている。液はもうすっかり落ち切っていて
その向こう 窓に目を向ければ 外が暗いことが分かった。
今何時だよ?俺何時間寝たの…
「ハァ…」
アイツは何時間 居んだよ…。
左手を額に当てながら まだ閉じたがる瞼の重さに大きく息を吐いた。
・・・・
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。」
ガチャ
タクシーでたどり着いたマンション
首を横に振る植野に強引に金を渡し タクシーを降りた。
「ここですか…佐東さんのマンション…」
背後に建つマンションと俺を交互に見上げ
「本当に大丈夫ですか…」
何度目かの同じセリフをまた言って。
「遅くまで付き合わせて悪かったな。またなんか礼するわ。」
さすがに夜風に身震いはしたけど 昼間までとは全然違ってしっかりと言葉を吐くことが出来る
「そんなの良いですよ…明日は休みなさいって店長が言ってました。ゆっくり休んでくださいね。」
「ああ。」
「何か必要なものがあれば言ってくださいね?」
「サンキュ。…じゃ。」
運転手にドアを閉めるよう目線を向ける
「佐東さ…」
バタン
なにかを言いかけた気がした。けれどドアは閉じられ 植野は窓越し俺を見つめるだけだった。
「おやすみ。」
・・・・
「ふぅ…」
マジで植野には感謝…。
テールランプが見えなくなるまで見送った後 ふと空を見上げれば
「すげ…」
冬の澄んだ空気のせいで星がめちゃくちゃ瞬いて見える。
「ハァ…」
自分の吐く白い息に肩を窄めながら マンションに入った。
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