今週には終えるだろう…。
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「私の気持ちを汲んでくれたこと 感謝します。流輝さん、ありがとう。」
そう言って***は頭を下げた。
俺の目には感謝だけでなく 身勝手な自分の行動を詫びているようにも映る。
ある意味 俺との将来より『白金の花嫁』の未来を選んだと認めたようなものだなと
「本当に…ありがとう。」
「フン…」
相変わらず自分が二の次な事に情けないやら 寂しいやらで思わず失笑したが
「…?」
しばらくしても***は顔を上げようとはしなかった。それよりも
「…ふ…ぅ…」
漏れる呼吸が震えている。肩先まで…その悲壮感漂う様子に
「…***?…」
もう俺の顔は見ない…会わない
その決意を感じて。
…は?
・・・・
自分がそう仕向けたとはいえ
俺が『白金の花嫁』を手放したことで 俺との別れを決意したらしい。
捨てられるとでも思っていたか 立ち去るのを待ってるのか
俺にそんな気はなかったとしても
目の前の小さな体から溢れんばかりの悲壮感は俺を突き離し
コイツとのあいだにまるでガラス窓でも立ち置かれたような錯覚
「…ハァ。」
俺までとてつもない喪失感に襲われた。
一度失った女だからだろう 感じたことのある空虚感に 呼吸を忘れそうになる
「…芸術バカ過ぎるんだよお前は。」
説教どころじゃない。だが
「…***。」
泣き縋り付くような女なら 俺はこんなにも惹かれなかったのかもしれない…。
カサ…
胸ポケットからアレを取り出し
「よく聞いてろ。」
読み聞かせ始めればなに事かと顔を上げるだろうと思う。
そして 想像どおり充血している瞳の***と その瞬間は見つめ合い
「『愛する曽孫***へ。』…」
俺はすぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるんだろうと思った。
・・・・
…別れを決意していた。呆れられサヨナラされて当然だって思っていた。
だけど断ち切れない愛情に体が震えて どうしようもない
涙が落ちる前に早く…早く私を振ってって
「『愛する曽孫***へ。さすが***の婿殿だ。よくぞ見つけてくれたね。安心して君を任せられるよ。』」
え…?
そう思っていた…この手紙の存在を知るまでは 。
流輝さんが読み上げたその文面に曽おじいちゃんの面影を感じ 思わずハッと顔を上げる
「『婿殿 ありがとう。二人に幸多かりしことを願う。』…」
パサ
「…これ…」
差し出されたものは茶色がかった小さな和紙
すぐにそれを手にし 文面に目を走らせた。
曽おじいちゃんの字だ…
「…これどこに…」
懐かしさに胸こみ上げるものを感じながら呟く様に聞けば
「白金の花嫁に隠し収められていたものだ。細長く丸められヒールの部分に入れ込まれていた。」
そんなところに…
何度も何度も目で文字を追い 心の中で読み返す 気づけば頬に涙が流れていた。
「大正ダビンチのお前への愛情は大したもんだな。」
「…っ…」
曽おじいちゃん…
優しく諭すような流輝さんの口調に涙がまた溢れ 危うく手紙を濡らしそうになって
「はぁ…」
呼吸を整えようと手紙を胸に抱いた。そんな私に流輝さんは
「…なぁ***。」
一段と穏やかな声で…話掛けた。
「白金の花嫁は確かに手離した。だが俺は、この手紙を手に入れただけで 十分 大正ダビンチの挑戦に打ち勝ったと思ってる。***、違うか?」
…え…?
見つめ返せば 流輝さんの声が一層優しく穏やかになり
「だから、」
「…流輝さ…」
笑みを浮かべている彼の手が私の頬に伸び 涙を拭う
その温かさにフッと瞼を閉じそうになった瞬間に
「俺と結婚してくれ。」
…そう言ってくれた。
「俺はお前を失いたくない。」
こんなにも優しい眼差しで包み込んでくれる
こんな私でも 彼のお嫁さんになっても良いのかな
「…う……」
曽おじいちゃん 彼の優しさに甘えても良いの
「返事は。」
頬を摘むような そんな指先を感じたから
「…はい。」
泣き笑いながら頷き 手を重ねた。
・・・・
二度目のプロポーズをした直後
「ううう…」
「バッ…!おい髭!泣いてんじゃねーし!!」
ポカッ
賑やかな声に カウンターに目を向ける。そうすれば
「おい柳瀬!!突然公開プロポーズとかすんなし!!」
顔を真っ赤にし 焦りを隠せない拓斗と
「良かったなぁ二人とも。いやぁ良かった…」
大袈裟なほど顔を綻ばせているボス…俺は思わず吹き出した。
「クック…お前らまだいたのかよ。人のプロポーズ見るとか趣味悪ぃぞ。」
「はぁ?!」
色は違えどギャァギャァと騒ぎ続ける二人
「うるせー。」
***と目を合わせ 久しぶりに笑いあった。
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