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「こ、腰が…」
翌日 勤務中だというのに 私は何度となく腰を叩いていた。
体中が筋肉痛 ぎこちない歩行姿勢が昨夜の激しさを物語っている
ホントに『お仕置き』だったなって
「アイタタタ…」
思い出せば…頬は赤く染まってしまうのだけれど。
「○○さん、大丈夫?体調が悪いのかい?」
「え、あ、大丈夫です、ハハ…」
館長にまで心配される始末。もう、流輝さんてば激し過ぎるってば…。
「…しかも眠い…」
来客者に背を向けアワワと欠伸をしながらも 流輝さんの言葉が何度も頭に浮かぶ。
『阿笠に深入りするな。』
「…。」
そうなんだけど…確かにそうなんだけど 気になるよ…。
流輝さんにモヤモヤしている気持ちは伝えた。彼は納得はしていないだろけれど
「…『白金の花嫁』…」
あの靴を思い出せば いてもたってもいられなくなる。いっそ自ら連絡をし阿笠くんから何かしら情報を得たいとまで思う。
そもそも阿笠くんはどこで『白金の花嫁』を知ったの 私から何を聞き出そうとしているの
「○○さん。」
「…。」
アナタの目的はなに?阿笠くんは『白金の花嫁』をどうしようとしているの…
「○○さん。」
「…え、あ、はい…っ」
呆れたような声で呼んだのは鴨野橋くんに違いなくて 振り返れば
あ…
ドク…
「お客さんですよ。」
「こんにちは。」
「っ…」
胸の奥が音をたてた。それはまさに今 目に映る彼の事を考えていたからからか
「博物館ってホント広いね。***さん、捜したよ。」
「…阿笠くん…」
流輝さんの忠告が過ぎったからか…分からなかった。
・・・・
『『白金の花嫁』のことで早速に集まりたいし。』
拓斗はまるで俺の行動が見えているかのよう
「分かった。」
丁度俺が職場を出た時に 携帯を鳴らした。
拓斗には今朝早々に『白金の花嫁』について連絡をしていた。早速に今日一日情報を探していたんだろう
さすがだ。何かしら掴んだ…そういう事だと分かった。
『…アイツも…』
「なんだ?」
『…芸術バカも連れてこい。一応今回はアイツの手柄だし。』
「ああ。」
奥歯に物が挟まったような言い方をする拓斗が可笑しい。笑いながら空を見上げれば
「分かったよ。」
ぼやけた空に星がちらつき始めたばかりで。
ちょうど良い このまま博物館に寄って連れて帰るか…
携帯を切り 帰路を急ぐ波の中 交差点を渡った。
・・・・
『…気になるよ。曾おじいちゃんの作品だもの…私へのプレゼントだもの…』
阿笠に深入りするなという俺の忠告に***がすんなり頷くとは思っていなかった。
そりゃ情報が欲しくて堪らないだろう アイツへの大正ダビンチの気持ちだ 写真であろうと実物を目にしてしまったのなら その美しさに目を奪われ 手にしたいと思うのは当然だろうと思う
だが あの阿笠という男がアイツに付きまとうのは気に入らない。
「メールしとくか…」
ピッ…
帰路を進みながら 博物館の裏手で待っていろと***に連絡をする。
ちょうど閉館時間頃に着くだろう足取りで博物館に向かっていた。
「…。」
暮れゆく空を見上げながら阿笠のいう男の正体について考えていた。
あのひよっ子にデカい組織は感じなかった。俺達ブラックフォックスの過去に関与した覚えもない。
ブラックフォックスの名を口にし探りを入れているのはただの興味か?そうとも思えるような学生の名残を感じる面影
刑事…とも思えない 売人でもない 闇の組織にもほど遠い
「…なんなんだあの男…」
カフェで見かけた表情はウソのない笑顔
背伸びをしているようだが屈託のない人懐っこさに裏があるように思えない…だとしたら
カツッ…
博物館の手前で足を止める。
「…探偵か?」
依頼されて『白金の花嫁』の行方を探している…
「あれ。柳瀬さんじゃないですか。」
「…っ…」
阿笠の正体が俺の中で鮮明になり始めた瞬間 前から歩いて来た鴨野橋に声を掛けられた。
「○○さんをお迎えですか。」
澄ました顔に可愛げの欠片もない…だがどうも俺はコイツに懐かれているらしく
「マメですね。」
「うるせ。」
いつも掴まる始末で。
腕時計に目を落とせば閉館時間を少し過ぎていた。鴨野橋の背後に目を向け職員用出入口から出てくるスタッフの中にアイツを捜す。
だが
「○○さんなら1時間前に帰りましたよ。」
「は…」
その一言に眉を潜めて。
「体調が悪そうだから早く帰りなさいって館長が。館長の気のせいですよ、今日も僕にキャンキャン反抗してきましたから。しかも」
「…。」
イヤな予感を一瞬感じれば
「あの若い男と外で待ち合わせしてましたもん。柳瀬さんからもよく言っておいてくださいよ、仕事はサボるなって。」
「…ハァ…」
思わず空を見上げ息を吐いて。
・・・・
「…また繋がらねぇ…」
プツッ
芸術バカに付ける薬はない。今度はどんなネタで釣られたんだと呆れながらも
「…ホントにアイツは…。」
らしくない…嫉妬というやつに胸の中を覆われた。
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