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~♪
「…またか…。」
携帯を手に取り小さくため息をつく。
「もしもし。…はい、○○***は私ですが…。」
美術コンクールに出展、最優秀賞を頂いてからというもの 絵の依頼があとを立たなかった。
「…いえ。あの絵画は売るつもりはないです。はい…」
依頼だけならホント嬉しくて光栄なんだけどあの絵画の販売を進める電話も多くて
「…幾らお支払い頂いてもお断りします。手元に置いておくつもりですので。はい…すいません…」
購入したいなんていう電話も多くて…私はいつもため息交じり応えていた。
ピッ…
ホント贅沢なんだけど。
「ハァ…。」
曾おじいちゃんもこんな風に頭悩ませたのかな。意思とは無関係にお金お金って…。
「…もう切っちゃお。」
ピピ…。
携帯の電源を落とし ふぅ…と深呼吸をする午後。
・・・・
曾おじいちゃんが残してくれたこの別荘を訪ねたのは何年ぶりだったろう。
子供の頃訪れた事のある森深い一軒家
アパートを飛び出し 迷いなく訪れた。
『ハァ…曾おじいちゃん…』
疲れきった私を 咲き乱れる花々が優しく出迎える 静かで緑豊かな空間に少し休めと労われる。
正直…彼が怪盗ブラックフォックスだという現実を目にし あぁ私ってば利用された感じ?そう理解した。だけどまだどこか信じられない気持ちがあった。
だって…流輝さんが私に言ってくれた言葉も行動もそのひとつひとつに感じた優しさも…全部ウソだったのって…え、そうなの?って。
目の前で『花水木』を奪い去った彼は私の知らない横顔
でも最後に言ってくれた言葉たちは私の愛した彼の…。
『ハァ…』
胸をえぐられるような切なさと悲しさと寂しさと…それでも彼に対する愛おしさが胸に残る。
人物を描くことは苦手だ。だけど無意識に筆は走り
『出来た…』
あの絵画を完成させた。大好きだったあの人を描く事が出来た。
流輝さんとの思い出を描くことである意味想いを封印し
私は随分と良い夢を見させて貰った 一生の思い出になる恋をした。それで良いじゃないって…
「う~ん…!」
…それで良いって。
背伸びをし 木漏れ日に大きく手の平を拡げれば エメラルドの輝きが目に映る。
そういえばこの別荘でこのエメラルドの指輪を渡されたんだよね
ギュッ…
「…頑張ろ。」
指輪を握りまたキャンバスに向かう。
曾おじいちゃんの名を汚すことの無いよう 私は静かにここで大好きな絵を描いていけば良い。
それでもう
「ふ~ん…色を上手いこと重ねるな。」
「ッ!」
ビクッ
…良い…
「ここの色。何色?」
「…え…」
物思いにふけりすぎ 気づかな過ぎ
背後に立たれた人影にさえも気づかないなんて…
突然ヒョイっと隣から顔を覗かせた男性に
「…きゃぁ!!」
ガタッ!!
「おいっ」
ピチャッ ドン!
大げさでは無く心底驚いた。椅子から転げ落ち 尻餅をついた…
「クック…。まぁ…仕方ないな、それだけ驚かれても。」
流輝さ…
彼への想いが見せる幻だろうか 私もしかして夢を見ている?
「…っ?」
目の前に立つ 愛した人 私は瞬きを何度もし
「…ッ!!」
声にならない声を叫ぶだけで。
ウソ…
・・・・
「ウケる…お前、インクが顔に飛び散ったぞ。」
だけど声と…懐かしさを感じる笑顔に 段々と力が抜けていく。それはまるで現実を受けとめ冷静さを取り戻した瞬間のようだった。
「バカ、擦るなよ。…クック、拡がったぞ、ピンクが。」
「…ッ…」
声が出ない…言い返せない
ただ戸惑いこんな風に驚き慌てる私だって言うのに
「ほら。立てよ。」
流輝さんはいつものように余裕綽々と笑う
「っ…」
手を伸ばされても…私はそれに応えようとはしなかった。
「…フッ…」
「…。」
静かに手を差し戻されても 顔は背けたままだった。
・・・・
ザザザ…と庭にそびえ立つ落葉樹が揺れる。そうしたら木漏れ日がもっとまばらに降り注いで 黙り込んだ私達を揺らす
「…観たよ、お前の描いた絵画。」
…え…
「正直驚いた。目に映したままの景色がそこにあったからな。」
流輝さんがあの絵画を観たのであれば もう私の気持ちは伝わっているんだろうと思う。
彼がただ単に学芸員だった私を利用し『花水木』を奪い去ったとしても
私は見事に彼の魅力に惹かれ心も体も許し…そして今も尚まだって…。
「最優秀賞、おめでとう。」
バサッ…
あ…
彼の突然の訪問に私は相当心乱されていたよう。
持っているなんて気づかなかった 目の前に突き出された真っ赤なバラの花束 上品な香りにくすぐられてやっと
「…ありがとうございます。」
小さな声で言葉を発することが出来 受け取る事が出来…
バサッ
え?
「なんてな。」
だけど流輝さんは私が受け取る前にバラの花束を背後に隠す。そして
「お前には…話さなきゃならない事が山ほどある。」
その時やっと…まともに目を合わせた。
「謝らなきゃならない事も。…沢山。」
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