文書を書き起こし(起)主題を展開し(承)興味を引き(転)全体をまとめる(結)。起承転結でいうと起・承までいった。
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「うわっ」
ガチャ
「そんなに慌てるな。」
バタンッ
連れてきた先は古寺よりもさらに山を登り辿り着く高台
昨日***があの寺に行きたいと言った時 頭に浮かんだのがこの高台だった。
学生の頃 拓斗達と遊び半分で一度訪れた事がある場所。
街を見下ろすことの出来る貴重な場所なのに 山道が余りにも険しく観光客どころか地元の人間も寄りつかない。
絶妙な時間にたどり着きたくて…少し運転が荒かったかもしれないな
案の定 道の途中 ***は少し車酔いをしたよう 何処に行くんだとはしゃいでいたのに会話の声は小さく 口を紡ぎ始める。
『お前大丈夫か?』
『だ、大丈夫です。』
だがそれも車窓を開け清々しい緑の空気を吸えば気分は随分と変わったらしく
頂上に着く頃にはもう鼻歌を口ずさむくらい笑顔を見せていた。
「わぁ~…」
「間に合ったな。」
車から飛び出し駆け寄る塀
見下ろす街は極ありふれた地方の風景でしかない。だけれど
「凄いだろ。」
太陽が傾き始めれば 街全体が眩しい程に照らされ 眼下は黄金色に染まり絶景となる。
時代の流れさえも感じない 穏やかな空気を醸し出すだけの景色
風の音 光の瞬き… 俺は忘れられなくて
「凄い…」
「良いだろ、この景色。」
コイツにどういうわけか…見せたくて。
「あんまり縋るなよ。塀が脆い。」
早々に景色に見入っている***の隣に並ぶ。
たとえば大都会を見下ろせば宝石を散りばめたようだと表現するが
田舎町の夕暮れ風景を例えるなら なんだろう
「運転 悪かった。太陽が傾くタイミングに合わせたかったからな。…?」
調子良く話しかけるが返事がない。
どんな顔をしているのかとチラッと視線を向ければ
え?
「おい…?」
***の瞳は夕日傾く黄金色に輝いていた。そしてその輝きは頬を伝い
「…***…?」
ポトッ…と塀にかける手の甲に落ちた。
・・・・
なんで泣いて…
目を見開く俺だっていうのに***はチラッとも視線を向けない。ただクスッと笑い
「こういう感じですよ。」
「え?」
「心に響く感じ。」
あ…
「ただ心に響く…こういう感じです。」
昨夜 一流の美術品に対して同じ言葉で答えた。それに首を傾げたが
「…なるほどな。…。」
宝石のような輝きを一粒ずつ落としていく。それを見ながら微笑み頷く俺は
「こういう感じな。」
胸が痛い。意味もなく 音を立てて、痛かった。
「…。」
その理由は明白だ。
俺の心に響いたのは眼下の景色ではなく
「…。」
コイツの涙。
・・・・
それから当分しゃべらなかったな。たとえば…そうだな
「…なぁ。」
闇を背に感じるまで。しとやかな沈黙に愛おしさを感じるまで。
「***。」
コイツが俺の声に 気づくまで。
「付き合わないか。」
「…え?」
見開く瞳と目を繋ぐ、まで。
・・・・
私達は街と同じ色に染まり始めて 背後には二人の影が随分と伸びた。
「…え…」
とんでもない事言ってるくせに余裕な表情で微笑んでいる流輝さん
私はきょとんとしたまま見つめ返す。
「…え?」
夢物語の一幕のよう この景色に感じる物語のワンシーンに登場した二人のよう
言葉を発する事も出来ない私に 彼はフッと笑う。
「ここと同じ。…響いた、感じ。」
顔を覗き込まれたら
え…
重ねられた手の平 優しく触れただけの唇。
私たちはどんな物語になるの。
・・・・
「お前、俺を3日で落としたよ。」
笑う彼との距離が近すぎて 瞳に映る自分が見えそうだった。
「たったの3日。時間にしたら…何時間だろうな?」
心に響くこの景色は 私に涙を落とさせた。だって瞳に映した途端感動して それを止める事なんて出来なくて
感じた物語はこれからどうなるんだろう
今のところ美しい夕陽と輝く街並みと 出会ってまだ3日の私たちと。
「…分からない。」
だけど戸惑うだけの台詞で埋め尽くすワンシーンにはしたくないから
「…。」
私達を引き寄せたものはなんだろう 見つめる私と見つめてくれる彼と
グッ…
紡ぎたいと思った。彼との物語
重ねられた手を絡め 自らもう一度唇を重ねた私は。
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