Continue:10 (吉祥寺デイズ:Long:湯野剛史) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

before

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「ドキドキする…」


胸に手を当て何度目かの深呼吸をした。


花火大会当日 浴衣姿の皆でごった返す駅前


この駅から会場までは電車に乗らなければならない。


本当ならもう向かっても構わない時間だけれど 改札口に向かう浴衣姿の女の子達を横目に駅前に佇んでいた。


夕暮れに差し掛かると吹く風に涼しさを感じる。けれど 人々の興奮が生ぬるい風になって頬を撫でる。


「ふぅ…」


暑い…


ドキドキとしているのは 慣れない帯に胸が締め付けられているからでもあるし


剛史の幼なじみ達と初めて会うって事もだし


「どこに居るんだろう…」


何年かぶりかに親友に再会する…というのもあるし…。


・・・・


やっぱり少しでも会いたい 親友に無理言って顔だけでも見せてよと


彼女が友人と待ち合わせをしている駅まで足を延ばした。


花火大会の会場とは逆方向になる。でも大丈夫 剛史との約束の時間には間に合うはず…。


・・・・


私と親友は去年の夏 会う機会を逃していた。


花火を観に行くと言ってその為だけに飛行機に乗った彼女


『花火大会すごい派手らしいよ。楽しみだね。』


『フフ…うん。』


けれど彼女はクスクス笑いながら


『ホントの事言うとね 花火大会には別に行かなくても良いの。』


『え?』


・・・・


「…。」


結った髪を気にしながら空を見上げると 真っ暗な空が頭上に拡がる


街の灯りで白っぽくも見える境界線に もうすぐ目に映す火の花を待ち遠しく思う。


だけど剛史とでなければ浴衣を何着も試着したり 時間が無いのにわざわざ美容院に行って髪を結っても貰わなかっただろう。


「…。」


それは剛史と観るから…だから私は今日が楽しみでしょうがないんだって気づいた時


『例えば雨が降って花火大会が中止になっても良いの。彼に会えればそれで良いの。』


…去年の夏 親友の言った意味が分かった気がして。


・・・・


「…ハァ。」


時計台の針を見ながら 次の電車に乗らなければまた遅刻だなと思った。


剛史 怒るかな…。


「…あ…」


満面の笑みで駆け寄って来る懐かしい顔に 自然と笑顔がこぼれる。


「久しぶり~~!」


「久しぶり…!!」


何年ぶり?どうしてか涙までこぼれた。


・・・・


お茶を飲む時間さえもなく ただ人並みの中 手を取り合って再会を喜び合う。


でも本当に…本当に私たちは時間が無くて


「もう時間ないよ もっとゆっくり話したいのに」


「あぁ~…ヤバいかも。」


そんな会話しか出来なかったように思う。


苦笑う私に 親友が焦った顔をした時 フッと私の背後に視線が向けられた。


「…あの人?」


「そうそう。」


髪の長い随分とスタイルの良い女性は上品に微笑み私に頭を下げる。


もうタイムリミット…


「また電話するから!」


ポンと背を叩き 私を笑顔で改札口へと送り出す。慣れない下駄に一瞬フラついたけれど


「花火かぁ 良いなぁ。羨ましいぞぉ」


その何気ない言葉に


「ねぇ。」


「ん?」


その言葉に…こんな事を言ってしまった私は意地悪だろうか。


「花火を観るのだとしたら…」


「え?」


「誰と観たい?」


「え…」


「ねぇ 今誰の顔が浮かんだ?」


・・・・


浮気する男は嫌い。二股だなんてもってのほか


またするのかなって またしてるのかなって きっと疑い続けると思う。


でも自分が好きならそれでも良いかなって。好きなのに別れるよりよっぽど良いかなって。


たとえ疑い続けたとしても傍に居てくれたら…そんな馬鹿げた事を本気で思うほど好きな人が出来た私は


「素直になりなよ。」


花火を一緒に観るのは剛史じゃないとつまらないから。


・・・・


『ハァ?お前何でそんな場所に居るんだよ??』


剛史の声が携帯越し耳に響く。


「ごめんてば…」


完璧遅刻は間違えなかった。電車が来るのを今か今かと待つ私は。


「ダッシュで行くから!」


私ってばどうしていつも鼻息荒く登場しちゃうんだろ?


・・・・


「まぁ 慣れたけどな。」


人波の中 手を引いてくれた剛史 ギュッと握って慣れない下駄を気にしてくれた剛史


「あの桜の樹の下に皆居るから。」


指差す先に彼の大事な幼なじみ達が居るらしい


今更のように自分の浴衣姿をチェックする私だったけれど


「似合ってる。」


そう…目を細め言ってくれたから 良いか。


・・・・


微笑み合って向かう桜の樹の下 耳元で囁かれた。


「帯引っ張ってクルクル~あ~れぇ~ってのがしてみたい。」


「バカ…」


アナタとだから花火が観たいの。




★END★ or Continue

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