Continue:4 (吉祥寺デイズ:Long:湯野剛史) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

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次の日 結局昨日買ったニットは着なかった。

 

カシミヤのニットは見た目も手触りも最高でもうこれしかない!って即買いしてしまったけれど

 

いざ着てみると丸襟なのが私の丸顔を余計引き立たせ ベージュ色は身体のオウトツを浮き上がらせる。

 

タグ切ってなくて良かった 返品しよう…

 

湯野さんとの約束の二時間前 ショップに来たわけだけど…

 

「ヤバい、どうしよう…。」

 

だけれど今度は交換したい服がない。

 

この恰好じゃちょっとラフすぎるよね…

 

細身のジーンズにヒールは履いているものの 鎖骨のばっちり見えるラフすぎるニットはある意味いやらしくも見える。

 

こんなことならスカート履いてくれば良かった…

 

なんて思ったってもうあとのまつり。時間がない、もうこの店で選ぶしかない!!

 

「ハァッ…!」

 

…結局、約束の時間を15分も過ぎてから店を飛び出す羽目になる。

 

30分前には息を整えて待っていたかった。

 

それなのに私ったら結局そのベージュのニットを着て待ち合わせ場所へと走っていて…

 

最悪、どうしよう、怒っていたら…いなかったらどうしよう…。

 

薄暗くなった空が私を一層焦らせる。けれど

 

「…あぁ~…。」

 

けれど、彼は待っていてくれた。

 

駅前の噴水の前で やっぱり待ちくたびれたかな 時計台を見上げているところで。

 

ホッとしたのもつかの間 サササッと柱に隠れて手鏡をチェックする。

 

髪がもたついてる…あぁでもメイクは大丈夫かな よし、なんとか…

 

「ふぅ…」

 

大きく息を吐き 髪を手櫛で梳きながらツカツカと彼に向った。

 

「あの…」

 

「あ…。」

 

だけれど繰り返す呼吸の荒さは隠しようが無い。

 

もうすでに赤くなってしまっている頬 微笑んだつもりだけれど全力で走ったせいで鼻息相当荒い。

 

「ごめんなさい、あの、遅れて、あの、」

 

喋ろうとすればする程 言い訳しようとすればする程 呼吸は乱れ顔はだらしなく崩れる。

 

「…ちょっと待って。」

 

「ん。」

 

右の手の平を彼に翳し 左手で胸を押さえ 大きく屈み込む。

 

ゼイゼイ…音とすれば私はこんな感じだった。

 

「…ふぅ。」

 

「走って来たの。」

 

「うん…」

 

「良かったのに。急がなくても。」

 

背は高いと思っていた。けれど真正面で向かい合って立つと思ったよりももっと高くてヒールを履いているのに見上げるような形になって…

 

「でももう20分も…」

 

見上げる時計は約束からもう25分も過ぎている。

 

結局納得いかないままのニット 乱れている髪 鼻息荒いくたびれた女

 

…って最悪。

 

情けなくて思わず俯いてしまった。けれど追い打ちをかけるように湯野さんは言った。

 

「服、買ってたの。」

 

「え?」

 

「タグ付いてるよ。」

 

「え?…えぇ~??」

 

慌てて首元に手をやると

 

…ウッソ。

 

確かに…ついてる…

 

試着室で着替えてこのまま着て行くといってショップを飛び出した。

 

返品するつもりだったからタグ切っていなくて…もうやだもうやだもうやだぁ~…

 

顔から火が出るのと同時に涙まで溢れそうになって思わず両手で顔を覆う。

 

「ドジ。」

 

彼の静かな声に本気で泣きそうになった時

 

「?!」

 

…ふわっと…まるで大きく包みこまれたような感覚に襲われて。

 

「切るね。」

 

・・・・

 

でもそれは気のせいではなかった。

 

湯野さんは私の首筋に手を廻し まるで…そうだ、ネックレスをつけてくれるみたいに大きな輪っかの中に私を封じ込めた。

 

「切れねぇ…。」

 

呟く声は息となって頬にかかる。もっと熱くなる頬を感じながら

 

バカにしないんだ…。こういうこともあるよってそんな風なんだ?

 

棒立ちの私は胸が熱くなるのを感じた。

 

微かに香るシトラスの香り。さわやかな彼にぴったりの香り…

 

良いな…こういうの良いな。

 

微かに感じる体温と相まって私の心をホッとさせる。

 

「…。」

 

あぁ私、この人好きだな…。

 

彼のこと、何も知らない。だけど私は彼の醸し出す何かに惹かれ、今夜この場所に来た。間違えなくこれは

 

「ライターで焼こうか。」

 

「うん…って、え?」

 

運命、だ。

 

「燃やす?!うそ、やだやだ!」

 

甘い気持ちもどこへやら。勢い良く離れブンブン首を振る。

 

「火傷するじゃない!」

 

「大げさな。」

 

焦りまくる私に湯野さんは可笑しそうに笑った。

 

「じゃ、そのままで良いか。何食おうか…って、いうかさ。」

 

「えぇ?」

 

ペースを狂わされてばかりだった。甘さの次は恐怖を感じそして今度は何??

 

構える私にプッと吹き出した。その笑顔を目に映した瞬間

 

「…あ…」

 

胸がキュンと音を立てる。

 

澄ました表情とは打って変わって無くなって見えるくらい細くなる彼の瞳

 

無邪気な笑顔に こんな顔もするんだって なんかズルいって

 

「…なに?」

 

頬が熱くなってしまった事隠せなかった。そんなリンゴのような私に彼は言った。

 

「俺と付き合って。」

 

「え…?」

 

「飯食って、話して…どんなヤツなのか知ってからにしようと思ってたけど、」

 

…やっぱりズルい。

 

「もう付き合いたいから。良かったら。俺と付き合って。」

 

・・・・

 

恐怖の次はまた甘さ…もう次がまた恐怖でも良い。

 

「…うん。」

 

私はたった今湯野さんの彼女になったんだ。

 

「何食おうか?」

 

「湯野さんインド料理好き?」

 

「インド料理?カレーってこと?」

 

すぐに肩に手を廻された。釣られて私も腰に手を廻した。

 

たった今付き合う事になったなんて嘘みたい。恋人になった私たちはもうずっと一緒みたい…

 

「ううん。ナン。食べ放題のお店があるの。」

 

「ナンの食べ放題??なに…お前って天然?」

 

「どうして?美味しいよ。私よく行くの。」

 

「なんでナン…なんで食べ放題…」

 

「お薦めのお店。」

 

「…やっぱ食いしん坊なんだな。」

 

「やっぱ?やっぱって何??」

 

・・・・

 

桜舞う夜の街

 

ピンクの絨毯の上をじゃれ合いながら歩いた。


 

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