Liar:44 (吉祥寺デイズ:Long:佐東一護) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

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「お大事に。」


病院で会計を済ませ領収書を見ながら 寒いとも感じる程の空間から夕陽の照らす街へと歩き出す。


「…お大事に、か。」


髪を揺らす風は生ぬるく 視界に拡がる雑踏は眩しい程のオレンジ


どこか影になる場所は無いかと その辺りをウロウロしていたら


「…。」


小さな公園 子供たちが飛び出すとは反対に私は足を踏み入れて


「暑…。」


木陰になっているベンチに腰を降ろし 汗を拭った。


・・・・


一護さんに告げたあの日 あの夜に彼は電話を掛けてきた。


まだ病院に行ってないというのに お昼に話をした時から何も変わっていないというのに


『…一応、もしもの事、話しておいたほうが良いだろ。』


か細い声 随分と弱々しいんだね


こんな一護さん私は初めてだったから少し戸惑った。


『…悪いんだけど…』


続く話を聞きながらそれはそう 私だって無理だよと心で答える。


ベッドに横になり 腹部に手を当て 実感もないくせにさも存在しているかのように撫でた。


『分かってる。…さすがにまだ…。』


たとえもし私の身体に光が宿っていたとしても 輝かす事は出来ないのだと二人で結論づけたあの夜。


『…ごめん。』


たとえば五年後…十年後の話だとしたら彼はどうしただろう。


きっと一護さんはあの彼女と変わらない関係を続けている


その時も同じ結論を出したのかなって


「…。」


彼女の顔を思い浮かべ また憎らしく思う。


・・・・


「…さてと。」


ミネラルウォーターを飲み干して 携帯を取り出し 一護さんの名を画面に映した。


『…もしさ。』


『うん?』


『…もし そうだったら…お前俺にどうして欲しい?』


『え?』


『…それっきりで良いわけねぇだろ。』


光を失ったからと言ってそれでは終わらない。傷を負った私という殻は残っているものね。


責任感強いんだ 五年後十年後 今度こそまた光を生み出す約束をしてくれるの


『…私は…彼と別れるよ。だから…』


…弱みを握ったみたいだね。


『…会ってくれる?一護さん。』


・・・・


彼は少し黙って それから小さな声でこう答えた。


『…分かった。』


・・・・


領収書をいつまでも手に握ったまま 私は一護さんへ連絡をする。


「…あ、沙希です。」


コール音を数える間もなくすぐに電話に出た。


今日病院に行くとメールしたから ずっと待っていたんだと思う。


「…あの…」


『ん…』


胸の鼓動が聞こえてきそう


か細い息を飲み込んだのが分かって 告げる私までドキドキしていた。


きっと私の告げる事は彼の望んでいない事に違いない。


でもごめんね ごめんなさい


「…会いたいです。一護さん。」


『…。』


…ねぇ黙らないで 何か言って。


『…分かった。』


・・・・


「ふぅ。」


ベンチから腰を上げ ペットボトルを近くのゴミ箱に捨てる。


その時 病院の領収書も一緒に捨てた。



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