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花火大会の夜 駅で***を待っていた。
正月以来のあいつとの再会…ずっとこの日を待っていた。
だけどベンチに座り 浴衣姿の女性が何十人と目の前を通り過ぎていく様子を見ている俺は
「…。」
とてもじゃないけれどこいつらみたいに浮かれ顔じゃない。
・・・・
切ったはずの沙希からの電話は俺を真っ暗な闇に突き落とし “責任”という二文字を心に突き立てる。
情けなくて笑う事もうまくできない俺 何も言葉を発しなかった幼なじみ達。
たぶんあいつらの心の中にも同じようなことが起こったんだと思う。
だってもしあの四人のうちの誰かに同じような事が起こったのだとしたら
俺はきっと同じように黙り込んだろうから。
…だなんて あいつらは俺みたいにバカじゃないから こんなヘマしないか…。
・・・・
そんな沈黙の中で突如言葉を発したのはリュウ兄だったな。
「一護。」
「ん…。」
「もし、そうだったらどうすんの。」
悩む必要なんてなかった。考える必要なんてない。
答えはただひとつ 光を輝かせる事は出来ないんだって事。
そして沙希に対しても気持ちは決まっていた。
「沙希の望むどおりにするよ。」
それがたとえ ***との別れになったとしても…答えは決まっていた。
それからまた俺らは黙り込む。
なんか俺らの頭上だけクロフネの電気切れてんじゃねぇのってそれくらい真っ暗な闇の中
身体の関係になるってことに こういう話は付き物なのに
遊びだろうと本気だろうとあり得る話なのに受け入れることに時間がかかる。
もし 沙希ではなく***だったら今ほど動揺しなかったのかもしれない。
新しい小さな光に俺のできる最善の策を考えていただろうから。
…こんなふうに消すと頭ごなしに考えてはいないだろうから。
・・・・
何も言わない…言えない俺に あいつらも揃いに揃って黙り込んでいる。
いつまでこうしているんだろう いい加減 外だって夕焼けに染まり始める。
そんな重い空気を破ったのは
「沙希は切れよ。」
「え?」
…まさかハルがそんな事を言うなんて。
ハルは大きく息を吐き 客と大笑いしているマスターに視線を向けそして改めて俺を見つめ直して
「たとえあいつが望んでも***とは別れるなよ。」
「…え…」
「土下座してでも。オレも頭下げても良いから。オレ付き合うから。」
ハルだって俺の言うことが一番ベストだって分かっている。
責任という二文字をとらなきゃいけないって。それでもそう強く言うのはきっと、
***との別れがとてつもなく俺のダメージになるって事 感じているからだろうな。
だけどそれは俺にとって都合の良い 勝手な話
「うん。そうだね、沙希ちゃんがいっちゃんと付き合う事望んだとしても…申し訳ないけど断ろう。」
理人まで んなこと言ってな。
「分かるよ、そりゃ。一生の傷を相手につけるんだから。」
茫然としている俺に剛史がソファーに凭れかかりながら告げる。
「普通なら…***と別れて沙希の傍にいてやるのが一番だと思う。けど」
すっげぇマジな顔して
「お前は無理だから。」
俺の気持ち、優先してさ。
・・・・
リュウ兄がパチンと手を叩き 呆然としている俺に笑い掛ける。
「もしもの話はやめようぜ。ハッキリしてからまた話そう。」
その微笑みが なんでだろ すっげぇ優しくて。
・・・・
そして今日…ついさっき沙希から電話があった。
会いたいというあいつに ああ 俺は光を消すんだって実感した。それと同時に
『会いたいです。』
ああ、俺は***と別れるんだって…実感した。
・・・・
「…悪いんだけどさ」
『うん?』
「…会うの…少しだけ待ってくれないか。」
今夜は花火大会 俺は駅のベンチであいつを待ちたいから。
・・・・
「いっちゃん!」
改札口から満面の笑みで駆け寄ってくるすっげぇ好きな女
「久しぶりぃ!」
飛び付くように抱きついてきた…ずっと一緒にいたかった人。
駅前だなんて相変わらず俺には関係ない。人の目なんて気にしない。
「…遅ぇよ。」
胸にしっかり抱きしめて 苦しがるくらいギュッと抱きしめて
「会いたかった…。」
何度も何度も告げた言葉を伝えたくて。
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