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あれからの私達…次の日 目を合わす事も話をする事もなかった。
クリスマスは目前に迫っている。サトウ洋菓子店に手伝いに行くべきだろうけれど
「…。」
それも…出来ないでいた。
だっていっちゃんは あきらかに私を避けていて。
ホームルームが終わってふと目が合ったとしても すぐに身を翻し一人教室を出る。
「…。」
そんな背を追い掛ける勇気は…私にはなくて。
俯く私の肩をハルくんがポンと叩いた。
「え?」
タケちゃんも静かに微笑み私の頭を撫でたけれど…それがどんな意味なのか分からなかったけれど
「ありがと…」
その笑顔にぬくもりを感じていた。
話をしなくなって三日目の放課後
「***。」
「え…。」
「帰ろうぜ。」
いっちゃんに声を掛けられた瞬間 目を合わせた瞬間…
「…うん。」
どれだけ嬉しかったか分からない。
この三日間で彼の心の中で何かが動いたのかもしれないと思う。
それはなんなのか私達の関係にどんな結論を出したのか…
それを問う事はやっぱり出来ないけれど…。
・・・・
学校からの帰り道。私の隣にはいっちゃんがいる。
「相変わらず冷た…。」
彼の手は温かい。手袋なんていらないね。
途中でゲームセンターに寄ってクマのキーホルダーに500円も掛けてくれた。
井の頭公園で私の好きな紅茶を買ってくれた。
クロフネのいつもの席で二人並んで ただ黙々と雑誌を読んで
「明日、店手伝いに来るだろ?」
「ああ、うん。クリスマスだもんね。頑張るよ。いっちゃんも頑張ってね。」
「俺は頑張りはしないけど。…でもさ、頑張ったらぁ…」
「なに?」
「お前を食わせてよ。」
「バッ!!」
頬真っ赤にする私に言ってやったって顔をするいっちゃんの意地悪は変わらない。
「お前が俺を食ってくれても良いけど。」
「バカッ!!」
・・・・
今まで通りの私達…何一つ変わらない私達だったけれど
「***…」
「ん…」
お互いの優しさを見せつける時は…少し違ってた。
いっちゃんはおしゃべりを一切やめた。
下着の色も聞いたりしない。私が恥ずかしがるようなイジワルも言わない
「…一護…」
でも私が彼の名を呼んだら
「…ん…」
優しく微笑んで口づけてくれる。
それで良かった。…それで、良かった。
お互いを求めることに夢中になってた。
私も彼も…夢中でお互いを求めてた。
・・・・
あの日からの俺ら…っつか 避け続ける…俺。
三日後のホームルームで担任が***が今学期で転校することをクラスメイトに伝えた。
「…短い間でしたが楽しかったです。…ありがとう。」
そう皆に頭を下げる***を見ながら 少なからず俺は三日後には知ってしまうんだと知る。
「…。」
話をしない一日目。切なさが胸を抉り始める。
目を合わせない二日目。イライラとした感情は乱暴な程胸に渦巻いた。
そして三日目…あいつに触れたくて 笑って欲しくてどうしようもなくて…。
・・・・
遠く離れたら こんな感じなんだと思う。
怒りとか悲しみとか切なさとか…たぶん俺はそれに飲み込まれ どうしようもないくらい投げやりになる。
たった三日ですぐに***を求めた。こんな俺が 耐えられる距離と時間なのか。
「…。」
木枯らし吹く街に肩を窄め歩く帰り道
ドン!!
「痛ッ!!」
すげぇ力で背を叩かれ 頬を引きつらせながら振り返ったら ハルとタケが笑っていた。
「…んだよ!!」
睨む俺に こいつら揃いに揃っていつまでも笑って
「は?」
…ただ…笑って。
「意味分からね…」
どういうつもりか言いもしない。
だけど少なからず俺は二人の笑顔の奥に意味があるとは思っていた。
おせっかいなリュウ兄もうるせぇだけの理人も…ただ俺に笑い掛けていたから。
「痛ぇだろ、バカ。」
***とのこれからの日々
幼なじみに背を叩かれる事で 何か吹っ切れたようなそんな気持ちになったのは確かだ。
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