LUNA:44 (怪盗X恋の予告状:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

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『ごめん。少し遅くなる。』


流輝さんからのメールにため息をつき桜の木の下 博物館へと振り返った。


「…。」


達郎…まだ居るんだろうな。


閉館の看板は出ているとしてもまだ開け放たれている扉の向こうにはいくつもの黒い影。


ブラックフォックスの追跡捜査もたぶん今日で最後なんだろう。


警察の人が最後とばかりに念入りに館内を調べていたっけ。


「…。」


だけれど…ふと思った。


ブラックフォックスの事を調べているんだとしても この博物館内で他に何か変わったことがあれば気づくはず。


けれど警察は何も見つけられないようだった。それって特に案内図に載っている以外の場所も物も無かったってこと…。


「…だったら…。」


椿姫肖像画は?手がかりさえもこの博物館にはないの?


「…素人の私が見つけられるわけないじゃん。」


諦めのため息が地を舞う。けれど俯いてばかりじゃ何の解決にもならないって黒狐の皆も頑張っているんだからって


「というより蛭川さんにドツかれるよ…。」


私は緑の葉だらけの桜の木を見上げ大きく深呼吸をした。


その時だった。


「…***。」


達郎が博物館から出て来たのは。


・・・・


「…帰り際にごめんな。」


達郎は私を博物館の中庭へと誘った。小さな中庭の中心に大きなハナミズキの樹がある。


もう空は暗く染まり綺麗な満月が光を放ち始めていたから 関節照明の当たるハナミズキの傍は私たちをぼんやりと照らした。


その傍に設置されているベンチ 窓から博物館入口の桜の木も館内の様子もよく見える。お互いの都合に丁度良い場所…。


「達郎、遅くまで大変だね。」


間に誰か一人座れる位の距離を開け私たちはベンチに腰掛ける。その距離…約50センチ。


「今日で最後。ホントブラックフォックスは足跡を残さないよ。」


皮肉にも取れる達郎の笑みに私は曖昧にしか頷けない。


「…。」


「…。」


どちらが先にあの夜の事を切り出すか。…まるで我慢比べでもしているみたい。


「…この間、ごめんな。」


…負けたのは達郎。


「…ううん。私こそごめんね。」


待っていたのは…私。


・・・・


気まずい空気が窮屈で仕方がない私達。


チラッと視線を合わせ微笑み合えたのは やっぱり長い付き合いだからだろうか。


ベッと達郎が悪戯に舌を出す。だから私は笑いながら


「…ホントごめんね。」


そう言って負けずと舌を出した。そうして二人で笑い合ったけれど…。


「…俺、今日さ、別件でシティホテルにさっきまで居たんだけど、」


「うん。」


フッと達郎が目を逸らした。


ため息交じりの声に何かを感じたけれど時折通り過ぎる警察の人に気を取られ


私は視線をキョロキョロとさせる。


「…見掛けたんだ。」


「ん?誰を?」


再び視線を合わせた私達。仲直りをしてすっかり気の抜けた私は首を傾げきょとんとしていたんだけれど


「…お前の彼氏…あの柳瀬って奴。見掛けたよ。」


「え?」


…とんでもなく動揺する羽目になった。


達郎は足に肘を付け身を倒す。そして大きな息を吐き 次の言葉を待っている私を見つめ


「女と居た。」


…そう、はっきりと言った。


「ロビーで落ち合ってエレベーターで上がって行って、」


…仕事に行ってるはずだった。


「結構長い時間…降りて来なかった。丁度俺が出る頃に二人で降りて来てタクシー乗って…二人でどっか行った。」


仕事が早く終わったからって迎えに行くってメール…。


「…お前はなんとも思わないのかよ。こういうの。」


少し遅くなるってメール…。


・・・・


…今の私と流輝さんの情況だったらきっとこんな事で不安にはならないんだと思う。


人違いじゃないって達郎ったらもう!って笑い飛ばしたりして…。


だって想いが通じ合ったばかり。毎日毎日楽しいばかり…。


「…。」


けれど達郎に顔を覗き込まれるほど がくんと俯いてしまったのは


「…そか。」


彼の未来には決まった女性が居るってこと。恋人だろうとなんだろうと一時期の関係でしかないってこと…


「…***。」


それを今更のように思い出したからかもしれない。


・・・・


私は流輝さんに恋をしてそして受け入れられた。けれどこの幸せな時間は早々続きはしない。


「良いのか?本当にお前…。」


「…。」


良いわけない。未来のない日々 思い出しか残らない日々を過ごして何の意味があるんだろうと思う。


「…ハァ…。」


好きになりすぎて目の前にある別れが見えなくなっていた。そうだよ、流輝さんと私に未来は無い。


「…イヤになっちゃう…。」


未来は無いんだ。


・・・・


ザワザワ…と靴音が響き始めて達郎が身体を起こす。そして誰かに手を挙げベンチから立ち上がった。


「俺、行くわ。…なぁ***、やっぱりお前が不幸になってくの見てられないから、」


私の肩に手を添え


「お前別れろよ。」


そう言われて…溢れる涙を堪えながら達郎を見上げた時だった。


「…達郎?」


達郎の視線が私から背後に動いたのは。


「クックッ…。なんだ、それ。」


…可笑しそうに笑う流輝さんが迎えに来たのは。



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