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冷たく突き刺す寒さが火照った顔に心地良い。居酒屋からのオレ達の足取りは軽かった。
「キレイだねー。」
イルミネーションに彩られている街 白と青の光が並木を包み瞳まで煌めかせる。***は時折足を止めスマホでその風景を撮影し始めた。
「どこを切り取ってもキレイなんだけど。」
画面越しに光を追いかけながら、写真を撮るたびに小さく笑って次はどこを撮ろうかと視線を走らせている。
「ガキかよ。」
「いいでしょー。」
はしゃいだ横顔に釣られ自然と頬が緩んだ。
寒いのは嫌いだがコイツを見てるとこういうのも悪くねーなって思う。
「…。」
誤解が解けて良かった…率直にそう思った。
空白の10年が無かったかのような錯覚をするほどの夜
でも実際にはあの頃とは関係が違うってこと。オレは分かっているつもりだが、
「まだ21時にもなってねーのか…。」
このまま帰るには早ぇよな…二軒目に行くほど***は酒に強くない。かと言ってこの寒空の下 外で喋るのも…。
帰すっていう選択をしていなかった。もう少し一緒に過ごしたい そのためには?…そればかり考えている。
「ハァ…。」
ヒカリのやつ、余計なこと言うから意識しちまうじゃねーか。…
昨夜のヒカリとの会話が頭から離れないでいた。
・・・・
「ヒカリねーちゃん、タクシー呼ぶか?」
昨夜、ヒカリはオレの昔話を神妙な顔をして聞いていたが、そのうち一人ブツブツ言い始める。
「なんなんだろ、このスッキリしない感じ…。」
「ねーちゃんが頭かかえることじゃねーだろ。」
オレは皿を洗いながらその様子に笑ったが、
「ねぇ、大和くん。」
ヒカリがソファから手招きし隣に座れと座面を叩いた。なんだと向かえば、
「大和くんは彼女との別れに納得してる?」
「は?」
「私はどうも納得いかないのよ。」
マジな顔してそう言ってきて。
「おいおい、いくらなんでも10年前…」
「聞いて。」
手を握られた。眉をひそめるオレを他所にヒカリは話始めた。
「話からして大和くんのほうが待ち合わせ場所に行かなかったのなら分かるの。でも彼女がすっぽかすとか…。なにか理由があったとしか考えられない。」
「…。いやもうさ、」
「改めて聞いてみたらどう?」
「ハァ?」
オレは勘弁しろと笑い退ける。そんなの今更、
「聞いたところでなにがどうなるんだ。時計の針は戻らねーよ。」
呆れちまって。もし何か理由があったのだとしても、
「どちらにしても別れただろ。」
その結末は変わらなかったろうから。
「ねぇ大和くん。」
「…なんだよ。」
「ホントに楽しい思い出作りだけのために会おうとしてた?」
顔を覗き込むようにまでされたのは、オレが素っ気なくし過ぎるからなんだろう。この話題から逃げようとしているのが伝わっていた。
「会いたかったからでしょ?彼女に何か理由があって、行きたかったのに行けなかったのだとしたら?もし会っていたら?そう考えたこと一度もない?」
「…。ハァ。あのさ、」
「分かるよそりゃ。遠距離になって次にいつ会えるか分からない、戻っても来ない相手なんだから付き合っても意味がない、それなら最後に楽しい思い出を…だけど、」
オレはヒカリから目を逸らした。
「会っていたら別れなかったかもしれないよね?」
あの時に蓋をした想いを…見抜かれた気がして。
黙るオレにヒカリは小さくため息をつく。そして随分と優しい眼差しでオレを見つめた。
「どれだけ別れの条件が揃っても、どれだけ正論を並べられても。腑に落ちない別れは必ず引きずるものなの。」
ヒカリを見つめ返せば、
「そんな二人が再会した。さて、この先どうなるでしょう。」
ポンと手の甲を叩かれる。その笑顔に笑い返せなくてまた目を逸らす。
…なんとなく言われることが分かったからだ。案の定告げられたその言葉に黙り込む羽目になった。
「100パーセントまた好きになる。」
「…。」
…気づきたくなかった本心を探り当てられたから。
・・・・
10年前のクリスマスの日 ***と会えていたらオレ達の未来は変わっていたのか オレがどうするか聞いていればコイツはなんて言ったのか
いつまでも考えていた。だけど、実際オレ達は別れて。もうそれをどうすることも…
「なんか変な感じだよね。」
イルミネーションの並木を背にした時***が言った。
「こうしてまた大和と歩いてるなんて。不思議。」
寒さからか酔いからか コイツの頬は少し桃色に染まっている。
「嬉しい。」
「え?」
目を合わせれば恥ずかしいそうに笑った。
「なんか嬉しい。」
・・・・
「今夜はありがとう。」
「ハァ…。」
あーー…オレはバカやろーだ。
二軒目だなんだ考えたが 誘うことも出来ず、事もあろうに自分のマンションに着いちまう。
「じゃ私はここで。」
***は屈託なく笑い、手を振ろうとする。オレは慌てた。
「送る。」
「え?」
「夜の一人歩きはあぶねーから。」
「いいよ大丈夫。LIから帰るの いつももっと遅いし。」
「ハァ?久仁さんなに考えてんだ…!あぶねーから送る。」
「いいって。大丈夫。」
押し問答が続く…それでもオレが厳しい顔で先を歩き始めれば***はやっと渋々…
「先生?」
「え?」
その時だ。背後から声を掛けられた。
「ああやはり、鴻上先生。」
「あ…。」
教頭かよ!
突然現実に連れ戻されたような錯覚をする。教頭の目が、頬をひきつらせるオレと隣の***とマンションとに動いた。
next
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