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「どうも。」
教頭こんな時間になにしてんだ?!
「え、どうされたんですか…?!」
「ウォーキングです。いつものコースです。」
ジャージの上下に軽いジャケット、ネックウォーマーにスニーカー
うちの前をコースにすんなよ…!
「そうなんですね…ハハ、驚いたー…」
教頭のこういうスポーティな格好は見たことがなく、新たな一面に驚いたわけだが、
やべー…!
今はそれどころじゃ、なく。
オレの半歩後ろにいる***にチラッと目を向けると、更に一歩後退りした。我関せず…いや、気を利かせたんだろう
教頭に小さく会釈はするが、私のことは気にせずどうぞ…まさにそういう姿勢だ。だが教頭の興味の矛先が、
「そちらは?」
「え?」
自分にロックオンされれば…目をパチクリとさせて。
「っ…」
うわ、どうする…。
頭の中で二つを天秤にかけていた。
嫁ではないと答えれば、結婚しているくせに他の女と遊ぶのかと教頭に白い目で見られ、あわよくば既婚者だということも更に疑われる。
だが、嫁ですと答えれば、
「鴻上先生、ご紹介ください。」
***がどう感じるか…。
やっと誤解が解けたっていうのに、打ち解けた途端コイツを都合良く使っちまうことになる。そんなのまた気まずくなるじゃねーか
「鴻上先生?」
教頭が眉間にシワを寄せ始めた…やべぇ、どうすれば…。
「…教頭、あの…」
続く言葉の先を見出せないのに、オレがそう声にした時、
「…教頭先生?」
***が呟いた。オレは頬を引きつらせたまま頷くだけだったが、
「え?」
背後からそっと手を握られる。そして隣に並ばれ
「いつも主人がお世話になっております。」
…腕に寄り添われて。
「え…」
***の予想もしなかった行動に目を見開いちまう。だがそんなオレに構わず、
「妻の***です。お会いできて光栄です。」
あ…
頭を下げる***に…居酒屋での会話を思い出した。
『本当に既婚者なのか疑われててさ。家にまで来るんだ、嫁がいるかどうか確認に。しつこい教頭がいんだよなー。』…
「っ…」
教頭だと分かって、対応してくれたのか…?
「やはり奥さまですか。こちらこそお世話になっております。」
教頭はペコリと会釈をし、オレ達をマジマジと見つめ始める。オレはこの展開に慌てながらも懐かしい横顔が目に浮かんだ。
「…。」
コイツ…そうだ、こういうとこあんだよな…。
学生時代、隣の席だったオレ達。でも会話を交わすことはなかった。だけどいつかの授業中、オレはしきりに渇いた咳がでて、
…コツ
不意に机に置かれたのど飴 ハッとし隣のコイツを見れば、
敢えて平静を装う横顔は少し桃色…チラッとオレを見て
『多少は違うと思う。』
頬杖ついて…桃色の頬を隠した。
『…サンキュ。』
あれが初めて***と交わした会話だったよな…。
「大和。」
腕を軽くコツかれハッとする。そして大げさなほどハハハと笑い、
「この前奥さんが持って来てくれた塩辛美味かったよな!」
***の手をギュッと握り返して。
「本当にね。わざわざご持参くださりありがとうございました。大変美味しく頂きました。」
教頭の口角が上がった。オレの心拍数はハンパなかったが、
「奥さまにもよろしくお伝え…っくしゅん!」
なんともタイミング良く、***がくしゃみをして。
「奥さまは風邪をひかれていましたね。鴻上先生、病み上がりの方を夜遅くまで連れ回すのはいかがなものかと思いますよ。早くお帰りなさい。」
最悪の鉢合わせを早々に幕引きできそうで。
「あ、ハイ!***、失礼しようか。」
肩を抱き二人同時に頭を下げる。
「それでは。」
「おやすみなさい!」
颯爽とマンションに入るオレ達は…出来立てホヤホヤの偽夫婦だ。
・・・・
「マジで助かった、ホントサンキューな!」
オレは足取り早く廊下を歩く。リビングに入りすぐにエアコンを付け、
「お前の機転の速さには脱帽…って、おい?」
振り返れば***がいない。廊下に顔を覗かせれば未だ玄関に突っ立っている姿を目にする。
「なにしてんだよ。上がれよ。」
「…いいの?」
「当たり前だろ。寒いだろ、なんか飲むか?」
躊躇している。オレがブンブン手招きしてやっとコイツはコートを脱ぎ靴を脱いだ。
「おじゃまします…。」
「どうぞ。なに飲む?コーヒーか紅茶か、あ、ココアもある。」
リビングに入ると***はグルッと部屋を見渡す。キッチンでセカセカと動くオレを横にキョロキョロと落ち着かない。
「…モテ部屋って感じ。」
「なんだそれ。」
目を合わせやっと笑った。
「広いね。」
「新婚さん向けなんだろうな。キッチンも広いし向こうに寝室もあるし。オレは一人で気楽なもんだ。」
「誰かと暮らしたことないの?…恋人とか。」
「居座られそうになったから別れた。」
苦笑いの***に舌を出す。
「ソファ座れよ。で?なに飲む?」
「紅茶がいい。」
「了解。」
***はコートを丁寧にたたみソファに置く。だが座りはせずラックに並ぶ本を眺め始めた。紅茶を淹れながらその様子を見ていたら、
…なーんか、マジで不思議な感じだな…。
***がオレの部屋にいる。この現実にオレは浮き足立っていた。
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