以下、①のつづきです…
2014年7月5日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.800 Saturday Edition
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■ 『from 911/USAレポート』 第669回
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これが「2つの特殊性」の1つ目ですが、これに対して「2番目の特殊性」という
のは何かというと、これは「一国平和主義」とでも命名すべき特殊性です。
例えば今回の集団的自衛権論議に際して、「日本が関係のない戦争に巻き込まれ
る」という懸念が多く語られました。ですが、「巻き込まれる」という受身形の認識
は誤りであると思います。一つには「第1の特殊性」の側、つまり「親米保守」の政
権は、「日本とは関係のない」ところで犠牲を払って、東アジアの軍事バランスに米
国がコストを負担してくれることとの「バーター」にしたい、そのためには、「日本
と関係のない戦争に巻き込まれたい」と思っているからです。
ですから、この問題は国内問題であり、堂々と「親米保守」の危険性を批判すれば
良いのですが、それを「巻き込まれるのは怖い」などとトンチンカンな恐怖心を表明
しているということが、まず「大変に特殊」です。
また、「日本が戦争に巻き込まれるとテロの標的にされる」という批判もありまし
たが、これも極めて視野狭窄であると思います。日本は資源のない中、エネルギー政
策の迷走により極端なまでに化石エネルギーに依存した状況にあります。ですから、
中東で大規模な紛争が起きること自体が国益には反します。また、産油国の一部と敵
対することも回避しなくてはなりません。
更には、日本はユダヤ教の国でも、キリスト教の国でもないわけで、カルチャー的
にはイスラム圏と敵対する理由はありません。また、労働人口激減という問題を考え
ると、インドネシア、マレーシア、パキスタン、バングラディッシュといった東南ア
ジア、南アジアの諸国との関係は良好に保っていかねばならない宿命にあるわけで
す。そんな中、まるで日本がどんどん中東で軍事活動をして、イスラム原理主義の憎
悪のターゲットになるというような話は、極めて非現実的です。
つまり、この「一国平和主義」というのは、純粋な感情論であり、それが大きな影
響力を持つことで、かえって「第1の特殊性」つまり、枢軸国の名誉回復を企図しな
がら軍事的な活動を拡大しようとする立場を「追い込み、居直らせて」しまっている
という構図があると思います。
こうした2つの特殊性、つまり戦後秩序に挑戦するかのように「枢軸国の名誉」を
追求し、そのために東アジアで孤立する危険性を米軍のプレゼンスで守ってもらい、
その米軍との貸し借りの清算のために「関係のない戦闘に巻き込まれたい」と考え
る、「親米保守」という危険な「特殊性」があり、これに対しては「あらゆる軍事的
なものには嫌悪感を持ち、外からやって来る危険へは恐怖心で反応する」という「一
国平和主義」という「特殊性」が拮抗しているわけです。
そのバランスの中に、日本の現在の「国のかたち」があるとしたら、それは国際社
会の中では極めて特殊な国であると思います。現在の日本は、普通の国に向かってい
るのではなく、より特殊性を強めている、そう考えるべきだと思うのです。
一つ大きな問題があるとしたら、経済合理性という原則を持っているはずの経済界
が、沈黙したままであるということです。依然として世界から資源を調達し、世界に
販路を見出す構造を日本経済は持っているわけで、政治的・軍事的に日本が孤立する
ことは経済界には決定的なダメージになるはずです。
にも関わらず経済界が、こうした問題に沈黙を守っているのは、政権与党の創りだ
す「官需」との構造的な癒着構造があるからだと思います。これは、途上国型独裁の
構造そのものです。もっとも、日本の場合は人口も経済も縮小の危機に直面している
わけで、途上国型というよりも縮小途上型経済ということになると思いますが、生存
への恐怖の中で「官需」にしがみつく構図としては、左右対称形であると言えるでし
ょう。
本来でしたら、経済界が改めてグローバルな世界へ向かって出て行くことで、日本
が国際的に孤立しない方向性が国家的な合意となり、またそうした経済活動に成果が
出ることで、社会的な不安感も払拭される、その中で「枢軸の名誉にしがみつく」と
か「外から来る危険に対して身をひそめる」といった不合理な感情論が消えていくこ
とが望ましいのだと思います。日本が「普通」になるとしたら、その方向性ではない
でしょうか?
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『チェンジはどこへ
消えたか~オーラをなくしたオバマの試練』。訳書に『チャター』がある。 最新作
は『場違いな人~「空気」と「目線」に悩まないコミュニケーション』(大和書房)。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
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