「美しき町」は、佐藤春夫(1892-1946)が、1919年に発表した短編作品です。 普通はありえないような奇妙な話です。読んでいるうちに結末の予想は、だいたいつくのですが、つい引きこまれて、最後まで一気に読んでしまいました。
人生には「夢」が必要であり、仮に夢が破れても、その夢に向かって頑張った時間は決して無駄ではない、私は読後、そんなことを感じました。もちろん、その夢は最初から実現しようもない、幻なのかもしれませんが・・・。
主人公の画家は、米国から帰国した、旧知の大金持ち(ここではK氏としておきますが)から連絡を受け、彼のもとを訪れます。彼にはある計画があり、それに協力して欲しいといわれます。人生には「夢」が必要であり、仮に夢が破れても、その夢に向かって頑張った時間は決して無駄ではない、私は読後、そんなことを感じました。もちろん、その夢は最初から実現しようもない、幻なのかもしれませんが・・・。
その計画とは奇妙なもので、東京のどこかに理想的な夢の「美しき町」をつくるというものでした。隔離された場所に、美しい家を百軒たて、町を作るというのです。
K氏はいいます。「私の持ちたいと思うのはそれほど広大な屋敷であることを決して要しない。ただ家であればいい。・・・・そうして私はそれを百欲しいのである。それら百の家は一切の無用を去って、しかも善美を尽くしていなければいけない。・・・・」(※1)
更にK氏は、町を作った後、そこに特定の条件を満たす人に、ただで住んでもらうといいます。家に最も満足してくれる人、互いに自分たちで選び合って夫婦になった人、商人でなく、役人でなく、軍人でないこと・・・等、色々な条件がありますが、そんな人達 -おそらくK氏が考える美しい人達- に、ただ住んで欲しいというのです。まるで夢のような話です。
そのアイデアを聞いているうちに、すっかり夢中になった主人公は、美しい町を建設する土地を探し、そこに家を建てる建築士をK氏と探し、この「プロジェクト」を進めてゆきます。
建築士は町に建てる家の設計図を引き、主人公の画家は、その家の完成予定図を水彩画で描いて、どのようにすれば、本当に美しい建物、町になるかを検証します。現在であれば、CAD等を利用してやる作業でしょうが、昔なので、もちろん全て手作業です。結構な労力ですね。
協力することとなった建築士も、非常に純粋な人で、この「美しい町」のアイデアに夢中になります。また、更に彼には、個人的なある願いがあったのです。いよいよそれが叶うということで、K氏も含めた3人は、毎日、K氏の宿泊するホテルに集まり、徹夜で仕事を進めますが・・・というお話です。
私はこの短編を、岩波文庫「美しき町・西班牙犬の家」で読みました。この本には、「美しき町」を含めて、全部で8つの短編がのっています。いずれの作品も面白いのですが、それよりも感心するのは、それぞれの短編の作風が異なることです。
「星」という作品は、中国の昔話のような短編です。「F・O・U」という短編は、フランスを舞台とした小説で、人間の純粋さと狂気は紙一重であることをテーマとした短編です。「陳述」は、「美しき町」に次いで私の好きな作品ですが、ある医者が看護婦長を殺害するまでの心境を、法廷での弁論という形で描いています。「美しき町」のような、どことなく明るい、ほわっとした文体ではなく、主人公の憎悪がひしひしと伝わる、きびきびとした文体で書かれています。
それぞれの作品から受ける印象がかなり異なり、佐藤春夫という作家は随分器用な天才肌の人だったのだろうと思ってしまいます。
大量の作品を残しているロシアの作家チェホフも、随分器用で、様々な作風の作品を、凄まじい勢いで書いたたため、先輩の作家から濫造を戒められたといいます。似たような感じの人だったのでしょうか。
(※1) 「美しき町・西班牙犬の家」 (佐藤春夫/岩波文庫)
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