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読書っていいですよね

世の中、いろんな本がありますよね。本を読んでいるとき、私は無常の喜びを感じます。本はどこでも持っていけるので、天気の良いには、日がな近くの公園のベンチで本を読んでいたりします。このブログでは、日々、本を読んで新たに知ったこと、感じたことを書いています。

 この本は、昔読んで、引越しの時になくしてしまったのですが、久々に、古本屋で見つけたので、買ってみました。
 庄野潤三(1921-2009)は、いわゆる「第三の新人」と言われる作家達の一人です。他には、安岡章太郎、吉行淳之介、遠藤周作等が、これに該当します。

 庄野潤三は、この「プールサイド小景」で、芥川賞を受賞しています。昭和30年の話ですが・・・。ひたすら、普通の市民の生活風景を、書き続けた人という印象があります。私小説ではないですが、生活スケッチ風の作品を多く書いています。

 「プールサイド小景」に描かれる家庭は、一見平和なのですが、実は主人は会社を首になり、今後の生活の目処が立たない状態です。平凡な家庭も、いつ崩壊するかわからない、その漠然とした不安が描かれています。「平凡に暮らせる」というのは実は幸せなこと。当たり前のようで、忘れやすいことを思い出させてくれる作品です。

 ちなみにこの家庭の亭主が首になったのは・・・これは文庫本の裏表紙の粗筋紹介にも書いてあることなので、ここでも書いてしまいますが・・・ 仕事の苦痛、不安から逃れるため、バーに通いつめ、つい、会社のお金を使い込んでしまったことが原因です。

 最後まで、読んでみると、更にその裏には、家庭に崩壊をもたらすもっと大きな要因が暗示されています。事実としてではなく、不安に怯える奥さんの想像という形で書かれていますが、「だめ、そこに行ったら、おしまいよ。」という奥さんの悲痛な叫びで、物語は終わります。

 似たようなテーマの話として「舞踏」という作品があります。
 「家庭の危機というものは、台所の天窓にへばりついている守宮(やもり)のようなものだ。」(※1)という印象的なフレーズで始まるこの作品は、若い女性に魂を奪われてしまった夫と、その妻のお話です。おそらく、女性の多くは、この作品を読んで、この妻の考え方に、賛成できないものを感じるでしょう。。。読んだ印象としては、「やや古い」というのが率直なところですが、テーマ自体は源氏物語の昔から、今に至るまで、変わることのない普遍的なものです。

 もっとも、彼もこのようなテーマでばかり、書いているわけではなく、1960年に新潮社文学賞を受賞した「静物」という作品は、梶井基次郎の「城のある町にて」に似た感じをうける作品です。
 様々なシーンが、次々と切り替わり、淡々と生活のスケッチが描き出されています。次々とシーンが切り替わるTVを見ている気分になります。庄野氏は、最初、朝日放送で番組制作を手掛けられていたそうなので、その影響もあるかもしれません。自然にカメラが切り替わる、そんな印象を受けます。

 色々な作品がありますが、いずれにしても、彼が一般市民の生活を、丁寧に書き続けたということに、変わりはありません。小市民である私は、そこに描き出された、ちょっと古い、でも今でも大して今と変わらない「生活」に、なんとなく安心するのです。。。

(※1) 「プールサイド小景・静物」 (庄野潤三/新潮文庫)

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