最近「ストーリーのその後で」ということを考えるようなことが多いです。
 

なぜ考えるかというと、

何かハプニングがあって、ハプニングより前に作られた作品のことを考える。
あるいは、
一つの結果を知って、その結果に至るまでに作られた作品を見る。

そんなことを体験しているからなのです。

 

 

今日は映画の考察記事です。
作品自体は2012年公開、そこから7年たって2019年に世間は衝撃を受けます。
後に主演の沢尻エリカさんが麻薬取締法違反(所持)で逮捕された「ヘルタースケルター」を考察します。


●第一印象は「劇物」
原作は岡崎京子さんの漫画。原作との違いはありますがストーリーの要素は忠実です。
美貌、(とそれを追いかけ維持するための)整形手術、薬物、仕事、煙草、名声、セックスといった、人間を快楽と破滅に導く素材がこれでもかと並んでいるような印象。
一つでも強力なアイテムを2つ、3つとどんどん混ぜ合わせていき、一人の女性を依り代として激烈なエンターテインメントに仕立て上げていくその過程を見せられます。
沢尻エリカさんが綺麗なのは言うまでもなく、彼女の周りを蜷川実花監督がとことんサイケデリックに、時に美しく、時にグロテスクに色づけてゆく。
目を離せなくなる瞬間と目を伏せたくなる瞬間が次から次へと交互に流し込まれるので、人によってはちょっと耐えられない世界観かもしれません。

ちなみに、ヘルタースケルターという言葉は「慌てふためき混乱している」という英語です。
ビートルズの曲が真っ先に思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか?
当初は言葉通りのしっちゃかめっちゃかで激しいサウンドの曲それだけだったのですが、ある殺人事件と結びついてしまったことで、
ヘルタースケルターという言葉自体が不吉なことの象徴になってしまいました。

ポールマッカートニーへのインタビューをもとにした自叙伝:Many Years From Nowより)


そんな言葉の印象ともリンクするように、とにかく全編通して不幸の影が尽きないです。
エキストラのモブに至るまでこの作品に出てくる人、たぶん誰も幸福を享受することはないのでは?
幸福を感じているよう見えるそれは、実は快楽を感じているだけに過ぎないのでは?

こんな強烈な空気感を匂わせつつ、トップを走る人間とその人が生きる世界はものすごくきらびやか。
写真家である蜷川実花監督の色彩センスで異常に彩られています。
音声も、業界を象徴するような歓声とポップスソング以外はクラシック調の劇伴が続くのですが、
決して昔からある完成されたクラシックは使われず、あくまで弦楽、吹奏楽、ピアノという楽器での再現に留まる。
どこか、本当の上層には届かないことを暗示するような不穏さが漂います。


●公開後のヘルタースケルター
本来なら先ほどの流れでそのまま出演者について書きそうですが、この作品は主演の逮捕が衝撃的すぎました。
劇中ほどの苛烈さほどないものの、沢尻エリカさんはまるでこの作品の登場人物「りり子」に本当になってしまったかのような未来。
ちょっと業が深いような気持ちになってしまいます。とは言え因果関係を見出すのは受け取り手次第なので、明確な根拠があるわけではありません。
でも沢尻さんが「りり子」という役にはまりすぎていたのは一つ事実ではあります。

しかも彼女だけでなく新井浩文さんもその後、芸能界を去ることに。
もちろん出演者の全体数から考えれば、そんな不吉とも言えるようなことが起きている割合のは低いので、
それを持って作品の何かを判断するというものではありませんが…、時に事実は…という気持ちにもなります。

逮捕の報が入ってきた時、何となく多くの人に浮かんだのはヒースレジャーさんではないでしょうか?
これもどこまでも憶測の域を出ないのですが、苛烈な悪役を演じた後に悲劇的な死を遂げた若き俳優は、今でもジョーカーの役作りが死の原因だったのではないかとの噂は尽きません。
彼の姉がその噂を真っ向から否定していますが、撮影期間中に激烈な役作りをしていたのは事実です。
そして、俳優が登場人物に入りすぎてしまい帰ってこれなくなるということも、昔からよく言われることです。


●この先…
ひとしきり落ち着いた今となっては、ここから先を追うことにある種の恐怖があります。
それとも、またいつか何かの歯車が悲鳴を上げて回り始めるのでしょうか?
映画では主人公の「りり子」が業界から一線を引いても、その存在と影響力がひそかにどこかに常に残り続けているかのような印象を持たせて終わります。

しかし、良い薬も悪い薬も、使う時目の前に意識が行きますが、後でどうなるかなんてことほとんど誰も考えません。
あるいは、でも蜷川監督は本当はこうなる可能性すら見えていたのでしょうか?
父親は俳優の才能を見抜く天才、蜷川幸雄さん。子供のころから周囲には「クリエイティブ」しかなかったようですから…。



●参考ページ

 

・ヘルタースケルター 配給元 公式サイト

https://www.asmik-ace.co.jp/lineup/2147

 

・ヘルタースケルター公開直前 沢尻エリカ体調不良報道について蜷川監督がコメントを発表

https://www.moviecollection.jp/news/11942/

 

・蜷川実花 2019年 8月10日 「サワコの朝」で幼少期を語る

 

・フロントロウ ヒース・レジャーの死亡について 姉のケイトが否定

https://front-row.jp/_ct/17070761