運命の地ライプツィヒに到着しました。
一次予選で涙を呑んだ8年前から、中止となった4年前。
8年間の全てを、此処に置いてくるつもりでいます。
この瞬間を8年間待ち続けた自分自身との決別が、まもなくやってきます。
一次予選の出番まで、あと2日となりました。
17日の14時が開始です。
そして私の出番は・・
・・なんとトップバッター!!
先ほど発表され、声を上げて驚いてしまいました。
47人のうち、トップバッターです。
結果は19日の夜に発表されます。
一次予選のプログラムは以下の通りです。
①-H. Schütz: O Jesu, nomen dulce SWV308
②-J. S. Bach: Liebes Herz, bedenke doch
③-J. S. Bach: BWV93/5
④-J. S. Bach: BWV81/3 Die schäumenden Wellen
⑤-J. S. Bach: Ich stehe an deiner Krippen hier
⑥-G. F. Händel: 《Jephta》Hide thou thy hated beams -
Waft her, angels, through the skies
プログラムはH.シュッツの"O Jesu, nomen dulce SWV308"で幕を開けます。
イタリア的な直感的な陶酔、甘美に飾られてイエスへの賛美が歌われます。
プログラムはバッハのシェメリ歌曲集より "Liebes Herz, bedenke doch" へと続きます。
敬虔に「イエス様が顕れる」と期待感たっぷりに歌い始め、
自分が窮地に居る中でも救ってくれる、イエスという救世主の存在に感謝を込めて華やかに歌い上げます。
大きな転換点が次曲にて訪れます。
教会カンタータ93番のレチタティーボです。
このナンバーはレチタティーボとしては例外的に長く(2.5分程度)、多くのドラマが詰め込まれています。
まず大きな特色として、レチタティーボの中に所々、コラール(讃美歌)のフラグメント(欠片)が挿入されているのです。
なんという大胆な試みでしょう。
このカンタータはまさに丁度300年前、ここライプツィヒで作曲されました。
「雷や雨に見舞われようとも、必ず主は私達の元に居てくださる、だから信じるのだ」という信念のもと、
二つの寓話が引用されます。(使徒ペトロの漁の話と、貧しきラザロと富豪の話)
4曲目のカンタータ81番アリアは、言うまでもなく一次予選の大きな見せ所のひとつです。
ここでは、荒波の中、船に乗っているキリスト教徒が、信念を試されているシーンが描かれています。
克服困難な荒波が技巧的なパッセージと共にドラマチックに描写されますが、
この曲の見事な特徴は時が止まったかのようにAdagio ゆっくりになる中間部です。
その直前の直前まで荒波が吹き荒れているので、まさに時が止まったかのような圧倒的なコントラストです。
最後から2番目の曲は再びシェメリ歌曲集より、有名な"Ich stehe an deiner Krippen hier"です。
ここではイエスは降誕したての赤ん坊で、その小さく脆い我々の希望の光を、優しく感動的に讃えます。
「私の元でお眠りください」と信心深く微笑む如く。
プログラムの最後を飾るのは、G.ヘンデルの《ジェフタ》よりアリア"Waft her, angels, through the skies"です。
このアリアはまた特別な力を持った音楽で、その背景には「愛する娘を、神のもとに犠牲に捧げなければならない運命に苛まれる父親」像があります。
なんという悲痛でしょう。それでも、耐え難い悲痛は今昇華され、天国的な祈りの音へと変わっていくのです。
鍵は、20分というやや短い時間の中で、
どれだけこのプログラムが秘めている《多様性》をプレゼンテーションできるか、だと思っています。
大胆に、繊細に、見せられる全てを1秒目から示していきたいと思います。