(5:19- 第5曲 菩提樹)

 

 

第3曲 Gefrorne Tränen 凍つく涙

涙も凍るような、凍てつく寒さである。

熱い涙も、瞬く間に凍ってしまうほど、

無慈悲なほどに辺り一体凍って何も動かない様子が描かれる。

 

 

Gefrorne Tropfen fallen

Von meinen Wangen ab:

Ob es mir denn entgangen,

Dass ich geweinet hab?

 

Ei Tränen, meine Tränen,

Und seid ihr gar so lau,

Dass ihr erstarrt zu Eise

Wie kühler Morgentau?

 

Und dringt doch aus der Quelle

Der Brust so glühend heiß,

Als wolltet ihr zerschmelzen

Des ganzen Winters Eis.

 

この頬から

凍つく雫が流れ落ちる

涙を流したことに

気づかなかったのか

 

おい涙よ 涙よ

お前たちは生温いな

つめたき朝露のごとく

凍ついてしまうのではないか

 

溢れ出たときは

この胸が燃えたぎるほど熱くしていたではないか

この冬の凍りのすべてを

溶かしてしまおうといわんばかりに

 

 

 

第4曲 Erstarrung こわばり

曲の始まりから豪雪の様子が伺える。

雪が降り頻る中で、甲斐なく青年は探す。

彼女と歩いた道跡を。

 

此処に花が咲いていたはずなのだ。

草原が広がり、二人でそこで寝転がったことだろう。

ところが今目の前に広がるこの真っ白は何なのだ?

全て枯れてしまった。

 

冬が終わる時、

此の体もすでに朽ち、知られざる此の思いは雪と共に溶けていくことだろう。

 

 

Ich such im Schnee vergebens

Nach ihrer Tritte Spur,

Wo sie an meinem Arme

Durchstrich die grüne Flur.

 

Ich will den Boden küssen,

Durchdringen Eis und Schnee

Mit meinen heißen Tränen,

Bis ich die Erde seh.

 

Wo find ich eine Blüte,

Wo find ich grünes Gras?

Die Blumen sind erstorben,

Der Rasen sieht so blass.

 

Soll denn kein Angedenken

Ich nehmen mit von hier?

Wenn meine Schmerzen schweigen,

Wer sagt mir dann von ihr?

 

Mein Herz ist wie erstorben,

Kalt starrt ihr Bild darin:

Schmilzt je das Herz mir wieder,

Fließt auch ihr Bild dahin.

 

雪中に甲斐なく

彼女の跡を追い求める

此の腕に寄り添って

緑の野をそぞろ歩いた跡を

 

地に口づけをし

熱い泪で

雪と凍りとを溶かしてしまおう

地面が見えるまで

 

花びらはどこだ

緑野はどこにあるのだ

花々は枯れて

芝は色あせてしまった

 

此の地から なにひとつ

回想の欠片を持ち出せないのか

この苦しみが癒えしとき

誰が彼女のことを語ろうか

 

此の心は枯れたも同じ

彼女の面影が冷たく こわばる

此の心 ふたたび融けるとき

その面影もまた 流れゆく

 

第5曲 Der Lindenbaum 菩提樹

此の超有名曲は、今やドイツの国民的童謡どころか世界的に知られるドイツの歌となったが、

歌っていることは、結構コワイ。

 

樹が"こっちにおいで ここに君の安らぎがある"と青年を誘うのは、

他でも無い、自殺の仄めかしだろう。

 

「自分の最後を自分で決めること」を促しているのだろう。

此の寒さに身を任せるかもしれないし、

或いはその樹の元で首を吊る、ということかもしれない。

そんな「誘惑」が青年を襲う。

目を閉じるとそう樹が囁くのだ。

その瞬間、音楽が短調から長調へと変わる。

青年が絶望を安らぎへと昇華させようという瀬戸際だ。

 

(しかも、この樹の誘惑で奏でられるホ長調という調性は、楽園的調性と言われている。

ワーグナー《タンホイザー》のヴィーナスの誘惑で、主人公タンホイザーが神聖な調性ニ長調から徐々に楽園的な(悦楽的な)ホ長調へと陥れられたように)

 

青年は死の誘惑を振り切り、さすらいを続ける。

小川に身を投げてしまった前作《水車小屋の娘》には無かった展開だ。

 

向かい風に 帽子が飛ぶ。

(帽子は町社会の中で共同体の一部として生きている証のようなものだった。

それが飛んでいって失われるということは、青年は社会との繋がりを今断ち切ったという暗示でもある。)

飛んでいく帽子を 彼は追うことはなかった。

 

流離い続け、だいぶ遠くまで来た。

あの「忌まわしき」菩提樹が見えなくなるほどには。

 

今もなお此の耳にざわめきを聴く。

"そこに君の安らぎがあるのに!"

 

 

Am Brunnen vor dem Tore,

Da steht ein Lindenbaum,

Ich träumt’ in seinem Schatten

So manchen süßen Traum.

 

Ich schnitt in seine Rinde

So manches liebe Wort;

Es zog in Freud und Leide

Zu ihm mich immer fort.

 

Ich musst’ auch heute wandern

Vorbei in tiefer Nacht,

Da hab ich noch im Dunkeln

Die Augen zugemacht.

 

Und seine Zweige rauschten,

Als riefen sie mir zu:

Komm her zu mir, Geselle,

Hier findst du deine Ruh.

 

Die kalten Winde bliesen

Mir grad ins Angesicht,

Der Hut flog mir vom Kopfe,

Ich wendete mich nicht.

 

Nun bin ich manche Stunde

Entfernt von jenem Ort,

Und immer hör ich’s rauschen:

Du fändest Ruhe dort!

 

町外れの泉のそばに

一本のリンデの樹がある

その木陰で

いくつもの甘き夢を見たものだ

 

樹皮に いくつもの

愛のことばを刻み込んだ

喜びの時も 苦悩の時も

私をいつも そこへと誘った

 

今日もまた 深き夜に

彷徨い

そこで 闇世の中で

目を閉じた

 

私を呼ぶように

枝がざわめいた

こっちにおいで 友よ

君の安らぎはここにある と

 

冷たき風が

此の顔に吹き付けた

帽子が頭から飛んでいった

私は振り返らなかった

 

あの場所から遠く離れた

今もなお

そのさざめきを聴く

“君の安らぎはそこにあるのに!”