少しでも従業員達との距離を縮めたい、せめて認めてもらいたいと


社長である私は、一営業マンと化して


新人でもやらないような飛び込み営業を始めました。それこそ片っ端から、地元の名簿に載っている全部です。



結果は惨憺たるものでした。業界自体が衰退、終焉に向かっているさなかで、新規契約なんて夢のまた夢の話なんだということを思い知らされました。



とにかく既存の顧客だけでもと、社長就任の挨拶も兼ねて営業に回りまくりました。





そういえば私の会社にも、よく飛び込み営業が来ましたね。


自販機の営業だったりセキュリティの営業だったり保険の営業だったりしますが


事務所に入ってくるなり


「お忙しいところ申し訳ございません。わたくし、株式会社○○の○○という者ですが、社長様はいらっしゃいますか?」



入り口一番近くに座っている人が



「はい私ですが」


と言うと



営業マンは必ず動きが止まって、間を空けて



「あの…社長様は…」



「(だから)私です」



必ず2度訊きしてくるんです。そりゃそうですよね。



社長といえば事務所の一番奥に座っているのが当たり前で、まさか入り口の一番近くのデスクに座っているとは誰も思いませんよね。


そう、私の席は事務所の入り口の一番近くにありました。社長椅子は会長である父がまだ使っていたので。私にはみんなが座りたがらない、入り口近くの席が与えられていたのです。



飛び込み営業マンと毎回ちぐはぐなやり取りをしますが、それでも一切の笑いもなく、社員の目は冷ややかでした。


近所の半野良の子猫が事務所に入って来たこともありました。ここはダメだよ、遊んでもらえるような場所じゃないよと帰ってもらったりするのも私の役目です。




しかしこのまま続くと会社の資金が底をつきます。金融機関に融資を申し込みに行きましたが、全て断られました。


衰退する業界で、しかもこれといった具体的な打開策が無いのが融資を断られた原因だと思います。それと2期連続で赤字決算だったのも響きました。


「これから一生懸命業績上げるように頑張ります」だけで融資してくれるような甘い世界ではなかったのです。






続きます