そういえば高水山のハナネコノメがそろそろ満開を迎えているのではと、高水三山から御岳渓谷を歩いてみることにした。高水三山は駅から歩ける山なので、バスの時間の心配はない。七時過ぎに家を出て、八時二十分過ぎには軍畑の駅に到着する。名の通り、軍畑とは昔多摩川の河川で戦場となったところである。一軒のパン屋と言うか何でも屋があり、飲み物やパンの類を、銘柄の指定がなければ、求めることが出来る。準備をして出発をする。奥多摩線を戻るように行けば、諸葛菜や菫や連翹や雪柳が出迎えてくれて、よく見ればニリンソウの群落があるが、まだ蕾である。大きな道路を左手に行けば、山茱萸に似た花はアブラチャンである。渓流の音が清々しい。すぐに草木染めの道場のようなところがあり、さらに行けば渓流に釣り糸を垂らしている方がニ三人おられる。何を釣っておられるのであろうか。ここら辺は、滝をなして白濁として流れるところと、あるいは瀞となって動かぬ水が深い碧を留めているところと、そういう感じのところが多い。さて、平溝川に沿って、本道を離れて登山道のある方へ向かう。山肌に茅屋があり、茅葺きの屋根がすでに青々と草が繁茂している。果たして人が住んでいるのであろうか。右に高原寺への道を行けば、左に石塔があり、突き当たりの登山者のためのトイレと、その右側が高源寺である。この奥に形の実に良い御堂がひとつぽつんと立っている。その姿がとても良い。ここに来る楽しみのひとつになっている。山肌を登山道へと続いている道路が、いささか傾斜があり、疲れるところである。坂の右手は柚子の木が植えられている。盛りの頃はそれはそれで風情のある所となる。坂の突き当たりが登山道で、清浄の滝という人工の滝の横を登って行く感じである。菫とムラサキケマンを見る。そういえば渓流の河原にキケマンを見たが遠すぎて写真にはならない。すぐに山道へと入って行けば、渓流の橋を渡って、対岸の山肌を詰めていく、もう一つ橋があり、 その橋のたもとから渓流を少し行けば、ハナネコノメの群生地で、行って見れば、思っていた通りの花盛りで、良い時に来たものだと我ながら満足ではある。さて、これでほとんど目的を達成したようなものだが、先を急ぐ。すぐ昔の伐採地のところに至り、息を切らして詰めれば、尾根へ出て、古びてはいるが椅子が三箇所ほど設置されている。その昔は展望の良いところであったけれども、今は杉がかなり成長して、景色を遮断している。そこで小休止をして、高度を少しずつ上げて行けば、途中で榎峠方面からの林道を経てくる山道と合流する。その道を行けば高水山常福寺への道となる。途中からミヤマシキミの芽吹きを右に左に見る。咲けばさぞかしという感じである。常福寺は階段下から登れば、情緒があり、ミヤマシキミそして青木の実が階段の左右を彩っている。山門も情緒がある。寺へ参って、裏手から高水山はすぐである。途中大岳山方面がよく見えるところがあり、ひと登りで高水山の山頂へ着く。ここも昔より展望が悪くなったところだろう。西に山を降りて、岩茸石山へと向かう。いったん尾根まで下りて、尾根を行く感じで、若干の起伏をクリアして、山頂手前から急登となる。息を切らせて登れば到着する。昔は岩茸が採れた山なのであろう。高水三山の中では一番の展望の良い山である。奥多摩の北方の山がほとんどが望める感じである。一番奥の白い山が浅間山ではなかろうか。西の一番奥にあるのが雪を斑に頂いている雲取山である。小雲取山からの稜線がよく見える。さて、黒山から棒ノ折山の山系を眺めながら、昼食にしよう。今日はパン食である。雄大な景色をおかずとして、この貴重な時間を過ごそう。関東平野は春霞の中で、ライオンズ球場の屋根が光となって望まれる。これから黒山の方へと降りる人が一人二人、棒ノ折山へと向かうのであろうか。そういえば白谷沢にもハナネコノメが咲いているが、今年はもう無理だろう。そろそろイワウチワの便りを聞くことになる頃である。さて帰りは岩茸石山の岩場を下りて、林間を馬仏山を巻いて伐採地を超えれば、惣岳山へと至るが、この伐採地が規模が広大で見所がある。なかなかの展望である。ただ近隣の山しか見えない。その伐採地が尽きたところが惣額山への道となり、迂回路もある。途中岩場もありちょっとだけスリルを感じることが出来るので登っておこう。山頂には青謂神社が鎮座して、社の彫り物が見事なのでよく覗いてみよう。そこから降りれば真名井天神の水場があり、冬場のせいか今は枯れている。さていつもは沢井の駅へと降りるルートを通っていたが、今日は御岳渓谷への遊歩道を歩いて沢井の駅へと行くことにしているので、御嶽駅までの大きな瘤を越えて、御嶽駅の裏山から下りる。そこから御岳橋の袂へ出ると、一本の桜が山塊を背に、空で揺らいでいる姿が花三分ではあるが美しい。雪柳が河原あちこちで春風で揺れて、川沿いの道を行けば、二輪草の群落があり、一輪だけ咲き、他はつぼみである。これからが楽しみであろう。菫もあちこちで咲き、諸葛菜は他と同様で、連翹もまた黄色い嘴を空に揺らしている。家々の庭には様々な花が咲き、空には三椏の花が日を背にしている。足元を見ればカキドオが咲き、ヘビイチゴの白い大輪の花が咲き誇っている。ユリワサビの花も水の流れのある辺りに白き姿を見せて、モミジイチゴの花を見れるかと思ったが、これはまだ蕾のままだが、咲く寸前というところだろう。黄色い花はキジムシロである。ムラサキケマンも少し見る。そのうちに澤井酒造のガーデンへ到着するが、そうか、今日は月曜日で休日である。蕎麦でも頂こうかと思ったが、残念である。そこから急坂を上って、沢井の駅へ到着し、見れば十三時三十五分発の青梅行きがある。それまでに着替えを済まして、あとは帰るのみである。今日は五時間弱の山歩きでした。
ありがとう、高水三山。
ありがとう、御岳渓谷。