福寿草に秩父紅という種類があり、これを見たことがない。節分草も少しは咲いているだろう。これは皆野のムクゲ植物園というところだが、ここだけでは面白みがないので、皆野アルプスを端から端まで歩いて、ムクゲ植物園へ行くコースを作ってみた。秩父線は西武線との連絡が悪くて時間もかかる。近くの駅を五時五十四分に乗って、府中本町で乗り換え、新秋津で西武線に乗り換え、所沢へ出て、前日予約したレッドアロー号で西武秩父へと到着する。乗客は山登りの客のみで五六人ぐらい居ただろうか。お花畑の駅から秩父線で皆野駅に出て、皆野町営バスが八時四十八分発の小型バスだが、登山客が次々に集まって来て十人にもなった。もちろん全員座れて、出発を待つ。そういえば、この停留所に石碑が三つほどあり、一つが秩父音頭家元碑となっており、金子兜太のお父さんの碑である。後二つはよく分からなかったが、それにちなんだものが一つと、歌碑が一つだったと思う。バスは出発して橋を二つほど越えて、山中へと入っていく。秩父三十四ヵ所の最後の札所の水潜寺で、二人ほど下車して、私は秩父華厳の滝の停留所で下車する。二人の女性と一人の男性の三人のグループも下車して、来た道を少し戻れば、橋を渡る細い木橋があり、それを渡るが、雪を積んで、しかも凍結しており、バランス良く渡って、山の中へと入っていく。真っ直ぐに、そしてジグザグに高度を上げて行く。山の中は雪もさほどなく、あっても短い距離なので、あまり問題がなく過ぎて行く。稜線まで陽が当たってはいるけれども、北面のせいか木漏れ日も林の中に射さない感じである。尾根へ出ると家が何軒か見えてくる。これが大前の集落であろうか。そんなに大きな集落ではないが、山中の集落で、景色も結構良さそうであり、その集落の開放された空間から、再び森の中へと入って行く、ここは凍結している箇所が幾分長くチェーンスパイクを付けようか迷うところであった。構わずに行ってみると、そのうち天狗山と大前山の分岐へ至り、天狗山へ右手に進路を取る。ひと登りで天狗山へ到着して、下りは岩場もありロープもついている。そこを下れば大前山の登りで、先ほどの三人が 大前山へ直接来るコースを選んだやうで、大前山直前の鎖場のある岩を登っている、鎖なしで登っているので、岩慣れた方々だろう。頂からは、下山はやはりロープはありの痩せ尾根で気が抜けない。その次の岩は鎖場を詰めると武蔵展望台で、名前の通りに素晴らしい展望を望むことが出来る。武甲山や両神山が一番目立っていることは確かで、秩父奥多摩の山々も一望である。またロープを下って岩場を行けば、金精の岩が祀ってある。昔から村の祈りが込められている大岩である。その次の岩場には浅間神社と彫られてあり、ここから富士が見えたのであろうか。あるいは山の形が富士山に似ているのであろうか。更に細い尾根を行けば、札立峠へ到着して、草萌の中に小さな観世音菩薩が祀ってあるので、そこに参って行こう。さあ、後ひと登りで破風山である。今日は雲も少ないので三百六十度の展望が望めそうである。そこで昼食にしよう。残念ながら南アルプスまでは見られないが、秩父奥多摩の山々がずらりと並んでいる。やはり主峰は武甲山で北側が掘られて、そこへ斑山のように雪を積んで、まだ春は遅いぞと言っているようである。また両神山は稜線のギザギザが殊に印象的である。そこから痩せ尾根を四阿のあるところまで行き、桜が谷への道と別れて、猿岩の方向へと進む。しばらく行けば風戸集落への道を分けて、大渕登山口まで息を抜けないロープや岩や細尾根が連続する。また距離もそこそこ長いので、たっぷりと山歩きが楽しめるコースになっている。この後は男体拝という高みに、まず行く。これは男体山がここから望めるのであろうか、そう思ったが、私の目ではそれは無理があった。そこから下山もまたロープ付で、次に二級基準点のある高みへと至る。そこは尾根の北側を巻くようにして行く。すぐ三叉ピークへと至る。三叉ピークからは前原岩稜の連続となり、その連続の果てに前原山へと至る。前原山からもさらに痩せ尾根は続き、いくつの瘤を登っては下りたのか分からないほどだが、天候が良いので、とても気分良く歩ける。特に風が強く吹いては、止んでそれがまた刺激になって、風が背を押しているようだ。空をゆく白雲も現れては消えて、とても気持ちが良い。道なりに降りたところが大渕登山口で、大渕の集落があり、畑が広がっている。集落の中を通って、赤平川の方へと、郷平橋を渡って、そこから少しで皆野橋を渡る。最初の信号を右手に、椋神社の方向へと進んで、 秩父線を横切って、ムクゲ自然公園へと至る。ここは入場料が五百円徴収されるが、珍しい福寿草の秩父紅が見られるところなので、疲れた身体もなんのそので、里山を登って秩父紅の咲いているところまで行く。福寿草と形は同じであるけれども、色が秩父紅というだけあって、とてもゆかしい紅色である。惹きつけられるような色合いがとても良い。若くもなく老いてもおらず、その輝きを表現するのがとても難しいが、ここしかないのであるから、まさに秩父の輝きであるに違いない。この輝きはどうにも形容ができない感じなのである。さて後は節分草が四輪ほど咲いていると、受付の人が話していたのでそれを探す。見るからに詳しそうなおじさんが立っていたので聞いてみると、果たしてわかっている場所を教えて頂いて、探してもちろん天然物の節分草である。後は皆野駅まで歩いて帰ろう。電車の時間が確か二時頃であったと思うので、今回は全体を通して五時間弱の山歩きでした。皆野アルプスというぐらいのところで、痩せ尾根が多くて、とても楽しめました。自宅には五時前に到着しました。
ありがとう、皆野アルプス。
ありがとう、秩父紅。