
ならざりしことの幾つや炭を継ぐ
囲炉裏も、見ることもなくなって久しいが、季語として残っているので、やはり、あれば、作りたくなるのが、過去も同時に生きている人間というものであろう。
消炭のやうな再会なりしとな
森に差す夜の明かりや冬蕨
ぬくたまる滑子たつぷりだまこ汁
家族寝て音なき部屋の寝酒かな
語り合ふ高さに咲きて冬桜
侘助や和服の背中丸かりし
寒木瓜や肩寄せ合ひて老夫婦
風走る海辺の街の冬北斗
凍蝶の日差しの中を上りゆく
おでん屋の底が分厚きコップかな
キャバレーのはねて賑はふ夜鷹蕎麦
熟考の果てに火箸で炭を割る
山小屋の腕を伸ばせば冬銀河
行く年の烏に呼び止められにけり
塩鮭や戦後の暮しつつましき
鼻血出るほどの肝ぞと山鯨