
法華寺
法華寺は光明皇后御願による国分寺尼寺である。バスで近鉄奈良から西大
寺への途中にあり平城宮の東北に位置する。本堂の秋の晴れ上がった空にす
っきりとした屋根を延べて美しく、尼寺の風情である。本尊十一面観音は、
誠に、質感量感共に兼ね備え、広い胸に太い太腿の右足の親指を少しく上げ
て、踏み出そうとする一歩の瞬間を見事に捉え、豊かなる肉体美は、実に、
大地の豊かさでもあり実りへの祈りでもあるように思える。それほどまで艶
やかに美しい。彩色も金箔もないが肩に垂れ下がるその髪の群青の厚き唇の
朱の色、そして今だ開かぬ光背の蓮の葉と花が、花と開いた観音像に、清涼
感を与えているようにも思える。素木像であるからその木目を生かした肌の
潤い、豊かな母なる大地を現出せしめて、この世が更に豊潤なれと祈るがご
とくではある。衣の裾を持った長い右手が印を結ぶがごとくに指を立てて、
日々にこころ新たに一歩踏み出す十一面観音がここに居る。