春の雷届かぬ地下の酒場かな 想ひとは残るものかも墓朧 春水の底から満ちて来るやうな 家々に立ちしアンテナ燕来る 絡まれてみたしと思ふ藤の花 峡の空低くなりけり鯉幟 散る花の峠を越えて行くつもり ポツポツと汽笛のごとく山桜 峡の空残花登つて行くばかり 新緑の山に大波小波かな 峡の空真一文字に鯉幟 春の風存分に入れ峡のバス 一筋の飛行機雲の春の山 新緑や瞳の奥が眩しかり 春風や抜かれ抜かれて峡のバス 新緑を右に左に峡のバス 渓埋めて稜線埋めて緑なす 新緑の滝なすごとく轟きぬ 山藤を太陽の子と思ひけり