尊敬する作家、故向田邦子さんのエッセイ集のなかに「眠る盃」と言う作品があります。
家での宴会の後、お父様が眠っている横で飲み残しの盃に入っているお酒を見ながら、彼女が
「はるこうろうの、はなのえん~、ねむるさかずき~♪」
と、荒城の月を歌った、と言うものです。
本当の歌詞は、「巡る盃」なのですが、幼き邦子さんにとっては、
お父様の高いびきの横で見る「眠る盃」だったのでしょう。
『酒は水とは違う。
けだるく揺れる。』
たしか、そんな風に書かれていました。
父の生前、よく一緒に行っていたところで、父はいつも熱燗を少しだけ飲みました。
私が「熱燗をください」と言うと、母が「言うと思った」とクスリと笑いました。
一口飲んだら、喉から胃まで、熱いお酒が滑り落ちるのを感じて、自然に目を固く閉じます。
盃をちょっと揺らしてみると、お酒はなるほど気だるく揺れる感じです。
「あ~あ、もう一回、お父さんと一緒に飲みたいなぁ」と言うと、
「叶わぬ夢よ」と、母がサラリと言いました。
何だろう?と私が聞くと、母は一言。
「知らない」
こんなとき、父が居たらすぐに答えてくれたのに(笑)
帰去来辞の一句。
雲は無心にして、岫(しゅう)を出ず
雲のように自然のままに、悠然と何にも束縛されず生きていく。
なるほどな、、、
この一句に出逢えたのは、何か意味があるのだろうか、、、
そんな風に考えます。
東京を出る前に、私事でいろいろとあった後でした。
絵ではなく、武者小路実篤の字を見ながらのお酒。
字を鑑賞しながらお酒を頂くのは初めてです(笑)
母と二人で、美味しいご飯に舌鼓をうちながら、
ああ、やっぱり母と私の間には父が居るんだな、、と実感します。
言葉の端々に登場する姿は、思い出と言うよりは、まだまだ生き生きとしていて、母と私に何度も何度も同じシーンの笑いをくれます。
人生と言う宴会を終えて、横で父がぐうぐう寝ているだけのような、、、
そう、まさに、眠る盃なのでした(笑)
うつつ


