ねぇ、君は、まだそんなことで悩んでいるの?
そう言いたいところだけど、言えない。
私もまだそんなことで悩み続けているから。
あ、まだあの人の事、好きなわけ?
その恋、どうせだめになるよ。やめとけ、やめとけ。
そう言いたいところだけど、言えない。
君が今そこでやめてしまっていたら、今のこの新しい恋はないと思うから。
あー、その仕事、そのままじゃミスるよ。
そう言いたいけど、言えない。
君は精一杯やっていること、誰よりも知っているから。
あぶなっかしいけど、
私と変わらない落ち込みやすさと楽観性を持ってるからきっと大丈夫。
君はそこで今の私を思いめぐらして、
どんなにか、大人の女性になっているか、と思っていることだろう。
思慮分別に優れていて、自分に余裕があって、
人に優しくって、満ち足りた生活をしているに違いない、って
そう思ってることだろう。
でも実際は、私が手にいれたものなんてあまりに少ないんだ。
無くしてしまったものだってある。
最近知ってしまったけど、
大人になるということは、あまりに心細いことだ。
あれほど持っていたはずの勇気さえ、時々理由もなく消え去ろうとするときがある。
もちろん、自信はある程度手に入れるけど、それと同じだけ、手に入れる不安がある。
深い経験と共に限界を知る、そういう法則があるんだ。
いや、むしろ、そう思いたいだけで、自信なんて無くし続けているのかもしれない。
だから、君から十年後の私であっても、
今そこで立ち止まって、落ち込んで下を向いている君となんら変わらない。
自分の無力さに絶望して、「お酒飲んじゃえ」って言ってる君となんら変わらない。
それから、
ちょっとしたバカみたいな冗談にお腹が痛くなるほど笑い転げている君とも。
満開の桜を見て、なんとなく涙ぐんでる君とも。
声をかけたい誰かに、かけそびれて、後味が悪い気持ちになっている君とも。
なんら変わらない。
もっと言うなら、きっとずーっと昔の小さな女の子のまんまだ。
でも、私は君で、君は私で。
君が経験してくれたさまざまな出来事。
君が感じた数々の気持ち。
喜び、楽しさ。絶望。悲しみ。
日々繰り返されたさまざまな感情。
それは、たとえ当時痛みを伴ったものであったとしても
今は、私の心の中に、寡黙な化石として埋まっている。
もうなんの痛みも感じなくても、ちゃんとそこに存していて、
しかもそれはとても確かで、染み出でる地下水みたいに、
過去と現在をつなげて、きっと未来にもつながる。
なんら変わらないけど、なにかは変わっていく。
泣いた分だけしっとりと濡れて。
笑った分だけ、琥珀色に綺麗に輝いて。
大人と子供の境目なんて、どこにあるのだろう。
人はいつまでも迷子みたいなもので、
たどり着けない目的地に向かって、一人で歩いている。
君だって私だって、いつまでもバカみたいな無邪気な子供だ。
君は私で、私は君だから、
君が頑張った分、私が居ると思う。
だから、君が過去で輝き続けられるように、今度は私が頑張ろうと思う。
最期の瞬間に、
いろんな時代の君と私ががっちりと抱き合えるように
ちゃんと受けとったものを大切に出来るように。
(十年前の私へ 私より)
うつつ
