ゲベルツトラミネールと言う品種がある。
これ、普通の女の子にはすごく人気の品種である。
辛口、ものによっては、少し甘めの後口。
でも、なんと言っても香りがすごい。
金木犀の香り。
ライチ、とか、マンゴーとか、バラとか・・・・。
トロピカルフルーツ、または強いお花の香りがする。
ありとあらゆるいろんな要素を持つ香りで、女の子は大好きらしい。
しかしながら、初めてこの香りを嗅いだとき、私は一言。
「うるさい香り。チャラチャラしていて、あまり好きじゃない」
と言った。
なんか、「俺をみて、俺をみて」って言ってるチャラ男を思い浮かべてしまう。
もしくは、着飾って、結構誰にでもウィンクしちゃうような女の子を思い浮かべてしまう。
それよりなにより、お料理を消しちゃうぐらいの強さが、どうも好きになれない。
協力態勢が整っていない。
和の精神がなってない。
などと、知ったかぶりをして思っていたのであるが・・・・。
先日、ゲベルツトラミネールの話になり、
「チャラチャラしてるよね」などと、話していたら、
するどい視線を感じた。
ふと見ると、ソムリエサムライが、こっちをにらんでいる。
「うつつさん、そういう言い方はやめて下さい」
ちょっと怖かったが、笑って言ってみた。
「いーじゃん!だって、チャラチャラしてんだからぁ」
「いや、本当にやめて下さい。ゲベルツはとてもいい品種なんです」
間違って理解をしないでくださいよ、と、私の友人にまで説いて聞かせ、
まるで私が悪者である。
まったくもって、あなたはゲベルツの里親かって感じである。
このソムリエサムライは、とてもまじめでいい若者であるが、
時々、頑固なポリシーを発揮して、急に説教を垂れることがある。
それがたまにキズである。
怖かったが、こちらはなんと言っても、客である。
だから、私も一緒に行った友人の手前、ちょっとだけふんぞり返って言ってみた。
「だって、こんな香りがうるさかったら、お料理に合わないじゃないですか」
ソムリエは目をつぶって首を振る。
わかってないな、と言う表情である。
あ、ため息までついた。
なーんか、面白くない。いらいらする。自分がバカになったような気になる。
「んじゃ、あなただって嫌いな品種あるでしょ?」
「僕はないです」
へ?意外?
「僕はどれも好きです」
少年のような瞳で心無しか頬を染めて、遠くを見て言う。
一体何を見てるのだろうか????
初恋の思い出かしら?
そっと視線の先を見てみたが、空のデキャンタが並んでるだけだった。
「僕ら、ソムリエは生産者が心を込めて大切に大切に育てた葡萄からできたワインを、
お客様に紹介して広めるって言う役割があるんですよ。
だから、好きとか嫌いとかの問題ではないんです。
だから、そういう言い方は、本当に本当にやめて下さい。」
まー、それはわかるけど、ちょっと今、そういう話してたっけ?
単なる好きか嫌いの話をしてたんじゃないんですか?
それじゃ、あなたにだって、嫌いな食べ物があるでしょう?
その生産者にはどういう言い訳をするんですか?
ワインに関してだけ、それはえこひいきではないですか?
あなた単なる頑固じじいなんじゃないですか?
一つ、今日こそは言い負かしてやろう、と、理論を組み立てた。
そして・・・・
「あのさ・・」
と言いかけたその時、
「すてきーー!」
隣の友人が声を上げた。
「ソムリエの役割がそんなところにあるなんて、素敵。」
ま、確かに素敵と言えば素敵で、至極まじめな意見である。
確かにそれはそうなのであるが、酔っ払ってまで真剣に話す話題だろうか。
案の定、賞賛を受けたサムライは、満足して深くうなずいて去って行った。
しかし去り際、にやりと笑ったのは見逃せない。
ちょっとムカついたところはあったが・・・・
ここで私もにわかに少し冷静になる。
ゲベルツトラミネールって人。
ま、、忌み嫌っているわけではない。
それなりにおいしく飲める。
避けたりはしない。出会ってしまったら、割とちゃんと味わって飲んでる。
嫌いと言うより、あ、この子、ここがこうならいいのにな、みたいな感じ。
そうだ、私の信条を忘れていた!
「人は不完全だから愛される」
だから私もワインラヴァアーとして、どのワインも愛しているのだ。
ただ、愛することと味の好みが合わないということはまた違うのだ。
はっ!そうだ。ここで、酔った頭が暴走を始めた。
それは、それは・・・・もしかして!
それは、好きになる人と自分に合う人は違う、と言うことと似ているかもしれない!!
そう思いつつ、サムライを呼んで言った。
「私、思い出しました。私のポリシー。座右の銘」
「七転び八起きですか?」
「違います。人は不完全だから愛される」
胸を張って言ったら、よく意味が分からないと言われた。
「だから、ワインも悪く言うからって嫌っているわけではないってこと。」
また首を傾げて、忙しそうにさっさとテーブルを去られた。
うーむ。彼には通じないらしい。
確かに、チャラチャラした男も、それなりに人間らしい。
みんなにウィンクしてる女の子も、それなりに人間らしくてかわいらしい。
私にとっては欠点であっても、それが好きな人たちにとっては、欠点どころか
愛すべき要素になる。
ワインもおんなじだ。
いろんな特徴があって、一人ひとりが平凡ではないけど、
どれもやっぱり一生懸命生きてることにはかわりないな、って感じ。
欠点はあっても、それは見ようによっては、人間らしさ、そのワインらしさなのかもしれない。
悔しいけれど、結構納得してしまったな(勝手に一人で妄想したのであるが)。
その時、サムライが新しいグラスワインを持ってきた。
可愛らしい香り。子供みたいににぎやかで、ほほえましい。
「うつつさん、このワイン、好きですか?」
「うん。割と好き。にぎやかだけど・・・・うん悪くない。好きかもな」
そう言った後、彼はまた無表情で去り、ボトルをもって戻ってきた。
テーブルに、そっと置かれる。
「ゲベルツトラミネール」と書かれていた。
(そのまま、彼はまたさっさと去って行った)
ふーむ。なるほど・・・・。
ちゃんと、こうして生産者の思いを消費者につなげる努力をなさるのね。
ふーむ・・・。
たぶん、
こんな風にワインは心を広く持って、味合うほうがいいのだな。
心を広く持つと言うことは、味わいの幅が広がるということなんだと思う。
そうでなくちゃ、うんちくだけを垂れるワイン好きな人になっちゃう。
それはもうワインが好きって言うより、自分が好きってこと。
あぶない、あぶない。
私もそうなるところでした。はい。
酔い始めた頭で、ぼんやりと考えている私の横で
「これ、大好き、超おいしい。これなんて言うの?香りもいい。」
友人が喜んでいました。
はい、さっきまで私が悪口言ってたゲベルツトラミネールです・・・・。
大変申し訳ございませんでした。
桜