♦第二の日常(続き) | *.・・Another Sky・・.*

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次の日もいつもと何ひとつ違いはなかった。

教室に流れる空気も、梅雨の時期独特のじめじめした湿気さえも、当たり前に過ぎていく日々と変わりはなかった。



「つまんねーなぁ」




いつものように汚い言葉で島田を罵倒するハジメとその仲間たち。

この日のハジメは、いつも以上に殺気だっていて、仲間たちさえも少し引き気味に彼の隣に立っていた。


むしゃくしゃを抑えきれなくなったのか、ハジメは右足で教卓を蹴り倒した。


その衝撃音に体が震える。


島田は怯えた顔でゆっくりとハジメを見つめている。



あたしは一瞬後ろを振り向いた。

空席が目に映る。新は今日も来ていない。


「山下ぁ!来いよ」


ハジメが声を荒げた。

静まり返る教室内。誰もが山下君に視線を移す。


山下君は、ハジメとはまるっきり正反対のタイプの人間だ。


銀縁眼鏡をかけていて、いつもひとりで読書をしているおとなしい人。

そんな山下君に、何の用事があるというの?


急に名前を呼ばれて山下君本人が一番驚いているようで、視線が宙を泳いでいる。


「やーまーしーたー」


ハジメは教卓から離れると、がに股で肩を揺らしながら山下君の前に立つ。


ハジメという大きな壁が立ちはだかり、あたしの席から山下君は見えない。



視界いっぱいに映る、ハジメの背中。

静寂に包まれる教室。張り詰める空気。

緊張が走る。


あたしは生まれて初めて、静寂が怖かった。

怖くてたまらなかった。


その次の瞬間。

ハジメは仲間たちを振り返り、口角を引き上げニヤリと笑った。

その顔があまりにも不気味で、あたしは思わず視線を逸らした。


ズルズルと引きずられる状態で教卓の前につれていかれた山下君。


島田と同じように体を小刻みに震わせ、瞳がぐらぐらと揺れている。


「殴れ」


ハジメが言った。


え?


殴れ?


その言葉の意味を、あたしは理解できない。


「殴れっつってんだろ!」


今度はさらに怒鳴り声をあげ、山下君は宙に浮く。

ハジメが胸ぐらを掴んだのだ。


フルフルと首を左右に振り、ズレた眼鏡のまま拒否をする山下君。


「チッ」


大きな舌打ちをすると、ハジメは山下君を床に思いっきり叩き付けた。


山下君は壊れた人形のように鈍い音をたてて、床に転がった。


「よーく見とけ。こうやるんだよ!!」


「ぐわっ」


ハジメは笑いながら、島田を蹴り飛ばした。


島田はお腹を抱えてのたうち回る。


「殴ったら手が汚れるから蹴りにしてやったよ」


ハジメが笑う。

彼の仲間が笑う。

下品で、耳障りな笑い声が響く。


何で笑うの?

何が楽しいの?


「明日から一人ずつコレをやることー」


わざとらしく手を挙げて提案する、ハジメの仲間のマサシ。


明日からひとりずつ??




目の前が真っ暗になる。

まわってくる、確実にあたしにも。



「明日はとりあえず山下、お前!」


山下君を睨み、ハジメを続けた。


「俺って優しいから。チャンスを与えてやってるんだよ?わかるよね?できなかったらお前がアレだよ」


首をクイッツと動かす。

アレ=島田


やらなきゃやられる。

できなきゃやられる。


静まり返った教室内。

恐怖と絶望の中で、あたしたちの第二の日常が始まった。


一日中、みんな口数少なく過ごした。

考えているのは間違いなく島田のこと。

いつ、どの順番で回ってくるのかわからない恐怖。


やりたくない、だけどやらなきゃ自分がやられる。


ハジメに逆らう勇気なんて、あたしは持ち合わせていない。



それはあたしだけでなく、ハジメの仲間以外の生徒、すべてに当てはまるはずだ。