♦突然のさよなら
――2008年 秋
早く顔を見たくて。早く話しがしたくて。
一分でも一秒でも一緒にいたくて。
土砂降りの雨の中走ってきたあたしは、息を切らしたまま大切にしている合鍵を鍵穴に勢いよく差し込んだ。
鍵と一緒に付けられたキーホルダーが、嬉しそうに音をたてる。
やっと会える。大好きなひとに。
「ただいま!!走ってきちゃったよ」
ドアを開けると同時に大きな声で叫んだ。
冷たくなりはじめた風が頬を赤く染め、ジンジンと痛い。
「新(あらた)?あれ?いないの?」
ドアを閉めてすぐ、異変に気づいた。
見開いた瞳に飛び込んできたのは、ガランとした何もない空間だった。
冷蔵庫もベッドも洗濯機も、つい最近まで当たり前にそこにあったすべておものが跡形もなく無くなっている。
「新・・・?」
あたしは肩で息をしながら、もう一度つぶやいてみる。
けれど、目の前の現実はかわらない。
無くなった物たちは当然のように現れてはくれない。
玄関で靴を脱ぎ、何故かそれを綺麗に並べてフローリングに踏み出した。
震える足で何も無くなった彼の部屋を見渡す。
そこにはもう、本当になにも存在していない。
新がいた形跡も。
新の面影も。
部屋の真ん中に寂しそうに置き去りにされた一枚の紙が目に入る。
あたしはその紙をゆっくりと手に取った。
『あず、ごめん。さよなら』
細いボールペンで弱々しく綴られた、新からの最後のメッセージ。
ごめん?
さよなら?
意味の分からない置手紙。
そんなたった一枚の紙切れで終わりにできる関係じゃなかったはずなのに。
「どうして・・・・・」
あたしの前から
いなくなるの?
新からのメッセージを抱きしめ、あたしはただ立ちすくんだ。
大川あずみ。
17歳。
大切な彼氏を失った。