『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 村上春樹
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/文藝春秋¥1,836Amazon.co.jp 春樹のレビューなんて書けるのかといえば、書けない。ただこれを読んでいた数時間は非常に幸福であったことは確かであるし、春樹を読める人とは本質的な点で分かり合えるような気にはなる、そういった本。 春樹の描く世界ってのは、もう別世界だ、現実にそっくりであるように描かれているから騙されそうになるが、彼らは日本語でなく春樹語をしゃべっているし、カティーサークがやけに登場する。 物語を振り返ってしまうと元も子もない。高 校時代の友人の一人が精神を病んで、仲良し5人組からはじき出され、その心の傷を16年も経ってから癒そうと過去を解き明かす(そうとする)物語。 主人公はあいかわらず「僕は無個性で超平凡な人間だ」っていいながら、女が勝手によってくるイケメンだし、金持ち。なぜか北欧に行く。おしゃれ春樹世界を作り出すのはいつも通り。でも、そういった点を躓きの石にしてはいけない。それはほうっておこう、本物の本も、多くの人に読まれなければならないのだから。 この物語は、人がひそかに持つ、他人には見えない部分へとアクセスしていく物語。起きて、満員電車に乗り、レクサスを売ったり、自己啓発セミナーの社長をやったり、駅をつくったりするそういった平凡であったり、時には唾棄するような人間であっても、人間というものは本来興味深い存在であるのだろうということへの可能性を見せる。 しかし、春樹の世界にまでFacebookが侵入していることには驚いた。