標題の番組を視聴しての

極私的な備忘録。

心に残ったことを pick up した

ただの覚え書きです。

 

NHKスペシャル|Last Days 坂本龍一 最期の日々

初回放送日:2024年4月7日(日)

 

 

この前心に刺さって2回目観た)

昨年、2023年3月28日に
がんで逝去した
坂本龍一氏の最晩年を
静かに追ったドキュメンタリー。


闘病の日々を記録した
日記や写真・動画と、
同時期に応じた

自伝のためのインタビュー音声を

軸にした構成。

 

キャプションの入れ方が

端正で美しい。

書体や、サイズや

画面上でのレイアウト。

 

終始、淡々としたシンプルな演出で

日々の苦悩や喜び、

葛藤、逡巡、

そして心の変容が

ストレートに伝わってくる。

 

  *   *   *

 

▼冒頭

 

2020.12.11
ステージ4のがんと診断され

余命半年と告げられた


余命宣告の翌日12.12にあった

世界同時配信のコンサートでの演奏

『戦場のメリークリスマス』

 

一音一音、
ピアノの音の透明感。

心の深淵を内省するかのような

人生の来し方を振り返るかのような

深い音色

ガラス細工のように繊細な音色


▼余命宣告

 

2020.12.11

現実なのか?

現実感がない。

何もせずに半年過ごすか

副作用に耐えながら5年生きるか。

 

やり残したことがあると感じるか

どうか――。
(余命宣告当日の日記)

 

2020.12.13

手遅れだということ。死刑宣告だ。

何を見てもこれが最後だと思えて悲しい。

バカなことをしたものだ。

恥かしさと勇気のなさが命取りになった。
俺の人生 終わった。

(日記)

 

 

▼入院中

 

2021.01.12

入院日

朝、最期の食事。

どら焼き、お茶、みかん、ご飯、キムチ、納豆。

これだけあれば幸せ。

みかんが食いたい。

(日記)

 

2021.01.14

20時間におよぶ手術

2021.01中旬〜下旬

せん妄のなかで

「すごいせん妄を見るんですよ。

まず意思では止められなくてね

脳が勝手に作り出してるわけ

どう抗ってもだめなんですね。
(最晩年のインタビュー)

 

2021.02.09

音楽監督を務めていた

東北ユースオーケストラの団員から

励ましのビデオレターが届く。

 

3.11で僕が強く思ったのは

人間が作るもの これが自然によって

壊れるんだなっていうのは

強く刻まれたのが大きいですね

 

音楽もそうじゃないですか

 

何かを喪失とか怒りとか悲しみっていうのは

創作の大きな原動力になるじゃないですか

モチベーションに

(最晩年のインタビュー)

 

2021.02.11

夜中に「スッと」する気分があった。

何かが変わったような。

何かのスイッチが入ったような。

(日記)

 

入院中は小さな音が鳴るものを

常に傍らに置いていた。

YouTubeで雨の音を視聴

→ 実際に観ていたという動画が流れる。

クレジットは © 2018 Nik Rijavec

 

YouTubeで探して 何時間もずっと

夜なんかもう8時間とかかけっぱなしで

ずいぶんと救われましたね

やっぱり自分にエネルギーがないときはね

音楽っていうのはなかなか聴けないですよね

音楽って熱量が高いものなので

受け止める体力がないと

なかなか受け止められないですよね

 

やっぱりそういうときは

音をただひたすら聴いてましたね

音楽じゃなくても

音がね とにかく必要で

(最晩年のインタビュー)

 

 

▼退院

 

2021.03.03

退院!しかし喉が痛い。
仮住まいの家に着く。ほっとして涙が出る。
治ったら
・カムチャッカの火山を録音。
・イギリス車を買おう。
・江戸川の鰻屋
・肉やコーラも食べたい時は摂る!
・相撲を見に行く
・歯医者に行きより噛みやすくしてもらう。トマトの皮を噛み切れるように。
・病院の看護師さんと先生のためにプチコンサートをする。「エナジーフロウ」「戦メリ」など。
・入院中、音楽を聴けない、雨の音しか聴けない感覚を忘れずに作品を作ること。
・天ぷら屋へ
・寿司
(日記)

 

母方の叔父で

ドイツ近現代史の研究者である

下村由一氏(93歳)のインタビュー

 

「彼が中学生のころに

すでに作曲の勉強をしていて

曲を作ると、いくらがんばっても

モーツァルトにいっちゃう、と。」

 

当時、下村氏がプレゼントしたバッハの教本

当時の創作ノート

 

2021年 春

治療の合間を縫って

映画や舞台の音楽活動を再開する

 

 

▼転移、再入院


2021.04.06
新たに肺への転移が見つかる

ほかに合併症も起こり

2021.04.07 に再入院
入退院を繰り返すことになった

 

2021.04.06

次から次へと問題が、、、

チキショウ!!!!!!!!!!!

ブータンに行ってしまうか、、、

(日記)

 

2021.05.29

広林の雨音、我が心を満たせ

(メモ)

 

2021.06.07

焦るな!帰ってきてまだ一日だ。

野生の力を漲らせろ!

(メモ@home)

 

2021.06.08

野生の力だ!気合だ!

(メモ@home)


2021.07〜08

読んでいた本の記録
『三島由紀夫と東大全共闘』
『日本精神分析』
『純粋理性批判』
柄谷行人『遊動論』
柳田國男『海上の道』『山の人生』

長年交流がある編集者

鈴木正文氏のインタビュー
(元GQ JAPAN編集長)

実際に読んでいた本。

ページには大量の付箋。

『月と不死』ニコライ・ネフスキー

『時の震え』李禹煥
『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ

『映像のポエジア』アンドレイ・タルコフスキー

本棚には

『八大山人[人と芸術]』周士心

『無門関』西村惠信

『時間』吉田健一

『中国の思想12 荘子』

『意識と本質』井筒俊彦

『余白の芸術』李禹煥

その他、漱石や鴎外の全集など。


2021.10

手術

 

2021.10.11

生きるのって面倒くさい

(日記)

 

治療がうまくいって

もう1回復活するかもしれないけど

痛いし 体力落ちるし
ペットボトルのふたが開かないぐらい

筋力が弱まっちゃって

筋力が弱まると

主体性まで弱まっちゃうっていう

自立心がね なくなるっていうか

自分じゃないみたいな

 

少しでも命を延ばすために

じゃあ筋力アップして

免疫力少しでも上げてとかさ

毎日のように言われるんだけど

そんなんで2〜3年延ばして

何かいいことあるかよっていう
もう ぶっきらぼうになっちゃってて
(最晩年のインタビュー)

 

2022.01.17

70歳(古希 杜甫から)。満月。
(日記)

 

2022.01.24

へんな格好をすると免疫力が上がる。

(日記)

 

→ 坂本氏が実際に読んでいたというWEB記事

ヘンテコな動きをすると落ち込んでいても元気が出る|日刊ゲンダイヘルスケア

 

 

2022.01.29

夕焼けを見てたら、雲のゆっくりした動きに気がついた。
東京でいったい何人がこれを見ているだろう。
雲の動きは音のない音楽のようだ。

(日記)

→ 美しすぎる日記の一説。

この番組内で強烈に心に響いた箇所のひとつ。

 

 

▼抗がん剤治療の中で

 

晩年を支えた医師のひとり

笹原群生氏のインタビュー

「音楽をあと10年つくりたい

 副作用で音楽制作活動に影響するのは

 絶対にやめてほしい、ということは

 ずっと言っていました」


次第に抗がん剤治療の影響が

出るようになった。

指先や手足に痛み、痺れ。

ピアノの演奏に影響する

ビビッと電気が走るような痛み

 

2022.02.25

ロシアがウクライナに侵略を始めてしまった。
World is getting mad and scary again and music might be the only way to stay sane. by Olga
(日記)

→ 英文はベルンハルト・シュリンクの小説『オルガ』の一節か。

世界が再び狂気と恐さを増している
音楽だけが正気を保つ唯一の方法かもしれない


2022.03
東北ユースオーケストラの

定期演奏会に参加

 

2022.04.18

こうなったら どんな運命も受け入れる準備がある。

(日記)

 

2022.04.25

歩く やった!今日は4700歩

(日記)

 

この頃、

一時的に体調が落ち着いたため

ニューヨークの自宅に帰ることができた。

 

個人の死生観というか 人生観なわけでね

だから僕は医療を拒否して

自然に亡くなっていく選択をする人もいても

全然おかしくないと思いますけどね

 

どう逝くかですよね

その逝く内容ですよね

(最晩年のインタビュー)

 

 

▼最晩年の音楽活動

 

2022.09.09
NHK 509スタジオでの収録

公の場での最後の演奏

『aqua』

 

生きているうちは音楽をつくり続ける。

オーケストラのための曲を制作。

 

2022.10.31

元に戻るという欲望、

ポジティブな力、神=心

(日記)

 

2022.11.02

右を下にして寝たら咳痰が少なくなり寝る。

負けねえ!!

(日記)

 

2022.11.05

眠れた。しかし疲れている。

(日記)

 

2022.11.13

言霊を信じることにした。

ナ・オ・ル、治る!

(日記)

 

2022.11.15

夜、喪失、興奮、混淆

(日記)

 

2022.11.16

こんなんで生きていると言えるのか!

より体力をつけ、好きな所に行き、

好きなものを食べよう!

(日記)

 

2022.12.29

音楽を残すこと。

残す音楽

残さない音楽

霧散する音楽

(日記)

 

最後のオーケストラ曲の

デモ音源、創作ノートなど

 

2023.01.09

去来すること

bill evans walt's 出雲

ボードレール マラルメ ハングル

ベッドで朝食べるのが習慣になった

聴いているか?

雲の流れ 幸宏のこと

(日記)

 

 

▼高橋幸宏へ


同じ時期に病気(脳腫瘍)になり
軽井沢の自宅で闘病を続けていた
高橋幸宏の自宅を訪ねる。

しかし、高橋が直前に入院して

直接の対面は叶わず。

 

高橋幸宏さま
   生き直そう。
      坂本龍一

(高橋幸宏へ送ったメッセージ)

 

高橋幸宏の妻

高橋喜代美さんのインタビュー

 

小学生の男の子ふたりが

しゃべってるような…

中学生、高校生、段階を踏んだ

兄弟のような関係だったと語る。

 

2023.01.11

なかなか眠れず
5時59分幸宏逝く!

(日記)

 

高橋幸宏、70歳逝去。

 

2023.02.18

NHKの幸宏の録画見る。
ちぇ、Rydeenが悲しい曲に聴こえちゃうじゃないかよ!
(日記)


細野晴臣インタビュー

 

 

▼体調が急変する

 

2023.3.20

1時ごろだんだん息が苦しくなり大汗をかく。

とにかく熱い。飽和度を計ると60から70台。

どんどん息ができなくなる。

救急車を呼ぶ。

(日記)

 

2023.3.22

リラックス!

(日記)

 

2023.3.23

心も身体もリラックス!

(日記)

 

2023.3.24

気力がない

(日記)

 

2023.3.25

ターミナルケアを

自ら医師に依頼

4人の子どもたちを

ひとりひとり部屋に呼んで

別れのときを過ごした。

 

長女、長男、次女、次男が

そのときのやりとりを回顧。

 

「『いい人生だった』って

言ったのはすごくよく覚えてて

いい人生だったなら それが一番

(次女の談話)

 


▼亡くなる二日前

2023.03.26
東北ユースオーケストラの定期演奏会を
病室のベッドからオンラインで観る。


演奏に合わせて指揮を振る。
 

吉永小百合の朗読で
3.11の被災者である

菊田 心さん(当時11歳)の詩
「ありがとう」が読み上げられる。

 

最後の一節で大きく顔を歪め

「これはやばい」と涙。

 

『ありがとう』 菊田 心

文房具ありがとう
えんぴつ、分度き、コンパス大切にします。

花のなえありがとう
お母さんとはちに植えました。
花が咲くのが楽しみです。

うちわありがとう
あつい時うちわであおいでいます。

くつをありがとう
サッカーの時とってもけりやすくて、
いっしょうけんめい走っています。

クッキーありがとう
家でおいしく食べました。

さんこう書ありがとう
勉強これからがんばります。

図書カードありがとう
本をたくさん買いました。

やきそば作ってくれてありがとう
おいしくいっぱい食べました。

教室にせん風機ありがとう
これで勉強はかどります。

応援の言葉ありがとう
心が元気になりました。

最後に
おじいちゃん見つけてくれてありがとう
さよならすることができました。

 

この詩は、震災後に寄せられた支援に対する感謝を伝えるために

地元紙・河北新報社の公募に寄せられた作品の一つだそう。
 

   *   *   *

 

▼最期の日

 

2023.03.28

亡くなる1時間前

意識を失ってもなお

ピアノを演奏するかのように

指を動かしていた

 

午前4時32分

雨が降る中

息を引き取った

 

静かな雨音は、天からの

あるいは音楽の神様からの餞

だったのではないかと思った。

 

   *   *   *

 

▼ funeral playlist

 

自身の選曲によるプレイリスト

Spotify の画面より

 

haloid xerox copy 3 (paris) - Alva Noto

Georges Delerue - Thème de Camille
Romanzo - Ennio Morricone

La chanson d'Eve, Op.95 - Gabriel Fauré
Gymnopedie No.1 - Erik Satie

Le Fils des Étoiles (*) - Erik Satie

Canon 5 a 2 (per Tonos) - Johann Sebastian Bach

 

(*)

Prélude du premier Acte
 or

Prélude du second Acte
 or

Prélude du troisième Acte