参議院選挙制度改革:遺憾ながら国民不在の法案が採択されてしまいました | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

参議院選挙制度改革:遺憾ながら国民不在の法案が採択されてしまいました

 参議院選挙制度改革に関する法案が審議されていましたが、昨11日、参議院本会議で自民党案が可決されて衆議院に送られました。私自身の手で起案させていただき、法案の筆頭提案者となった国民民主党案はどの党の提案よりも優れていたと多くの方からご評価をいただきましたが、問題のある自民党案のみが採決されたのはきわめて残念です。

 選挙制度は「民主主義の土俵」とされており、国民の皆様が直接意見を表明する上での制度を保証すると共に影響力の平等をはかる重要なものです。しかしながら、この制度改革を巡っては多くの問題がありました。

 

1.制度改革の経緯
 司法の指摘を受け、10増10減の公選法改正が行われたのは2015年のことでした。その際、当時の民主党は公明党と共に抜本改革案を提示しましたが否決され、自民党の中途半端な案が法案として通りました。この自民党案は抜本的な見直しでないため、附則には平成31年参院選に向けて「選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討し、必ず結論を得る」という文言がありました。
 これを受けて参議院は第三者に託すのではなく自らが抜本的な見直しを行うとして、参議院改革協議会を、その下に選挙制度専門委員会を立ち上げ、後者では17回の協議が行われて報告書も出されました。最高裁が3.08倍は合憲との結論を出してはいましたが、この委員会では、それでよしとするのではなく、抜本的な見直しを行うための広範な議論がなされました。
 選挙制度は国民の皆様に等しく与えられた民主主義の権利を行使していただくための制度であり、可能な限り広範な合意が望ましいはずです。しかしながら、突如として自民党は、選挙制度専門委員会の議論を踏まえない選挙制度に関する法案を提示し、調整を行うはずの議長は、その責任を投げ出して、各党にそれぞれの法案を提出するよう促したのです。
 選挙制度の抜本的な見直しのためには、長年問われてきた参議院の在り方、ひいては二院制の在り方についての議論が不可欠で、それは国の在り方の根本を問う問題です。参議院自身が抜本的な見直しを行うとしたにもかかわらず、議長が責任を放棄し、第一党たる自民党がこれまでの議論を一切無視する手法はあまりに無責任で、国民から、それならば第三者に委ねればよかったと言われて参議院に対する信頼を失墜しかねません。

 

2.自民党案と法案審議の問題
 自民党案は定員を6増するものです。そのうち2議席は一票の格差縮小のために埼玉選挙区の定員を増やすことに用い、残りの4議席は、合区は間違いであったとして非拘束式比例選挙区(政党が順位を付さない方式)に拘束式(政党が非拘束式選挙名簿に優先する順位を付した特例枠を作る方式)枠を追加することに用います。この方式は大きな問題をはらんでいます。
 第一に、そもそも衆参の比例区の選挙制度が異なるため、国民にわかりにくいと指摘されてきましたが、更に選挙の在り方をわかりにくくしてしまいます。
 第二に、2012年の党首討論で消費税を上げる代わりに国会議員の数を減らすことが安倍自民党総裁と野田総理との間で合意されたことを条件に解散がなされ、政権交代が行われたのに、合理的理由すら示さずに消費税増税を控えて議員数を増加させることなどあり得ません。
 第三に、自民党の法案提出者が認めたように、合区で立候補できない候補者に対する配慮として特例的な拘束式が導入されたことで、これはご都合主義で国民不在の悪法です。そもそも、選挙区間の一票の格差をこのような形で迂回することは、司法の立法に対する信頼を失墜させかねません。
 第四に、比例区間での一票の格差という新たな問題を提起します。非拘束式比例選挙区で氏名を書いて得票した数が10万票でも落選する候補者が出る可能性がある一方、拘束式特例枠に記された候補者は個人名の得票数が100票でも当選する可能性が高くなります。国民の意思や投票に対する影響力の平等はどこかに吹き飛んでしまいます。
 そもそも合区案を通したのは自民党です。また抜本的な見直しを含めた法案を強引に通したのも自民党です。これらをないがしろにして、更に悪い方向に向けることは許容できるはずもありません。
 また、昨日の委員会では自民党案、日本維新の改案、希望の党案及び我々国民民主党案が出されて審議されていましたが、突如として自民党議員が動議を提出し、自民党案のみを採決しました。また、野党は退出していないのに、法案に対する討論という正当な権利が委員長により「省略」されるという過去に例のない運営で本会議に上程されました。あり得ません。

 

3.国民民主党の立場
 国民民主党は、22日の国会閉会後の期間を利用しても抜本改革を継続すべしとの立場ですが、自民党が今国会の期間内法案採決の構えを見せたために、自らの立場を明確にするためにも法案を提出しました。その際、小生に法案の起案と原口本部長が統べる政治改革・行政改革本部での審議が命じられ、小生も同本部の事務局長として働かせていただきました。
 この結果、法案を提出するのであれば抜本改革は困難なので、今後の方向性を示し、必ず抜本的な見直しを行うとの文言を法文中に入れた上で、司法が求める選挙区の一票の格差是正を優先するが、それは次の参議院選挙のみに適用されるべきであるために、最低限のものとするとの考え方がまとまりました。それ故国民民主党案は、選挙区2増比例区2減という定員増を伴わない部分と、今後の抜本的見直しの在り方に、①二院制の在り方を踏まえた参議院の在り方、②比例区と選挙区の関係、③各都道府県からの議員選出、という選挙制度専門委員会の太宗の議論を方向性として示した抜本的見直しを義務づける部分の二つで合成される案を示しました。
 この法案は、第一に、2015年の法案審議の際に立法者の意思として示された抜本改革とは参議院の在り方についての議論という点を踏まえ、そこに広範な合意がない以上、数合わせの議論や参議院の在り方を踏まえない法案を抜本的な見直しとすることは詭弁であり、残念ながら抜本的見直しに至らなかったと言うことを認めるべきだという考えに立っています。
 第二に、抜本的見直しがなされない以上、ブロック制等の参議院の在り方に言及しない法案は退けています。
 第三に、合区を増やす等の数合わせで一票の格差を提示した案もありますが、それを抜本的な見直しと主張しているがために、この数合わせが定着すれば、将来に亘り格差が拡大する可能性があると考え、この手法も退けています。
 我々の案は、この意味で、抜本的見直しから逃げることなく、民主主義の土俵を確保するための案となりましたが、数の政治の前に採決すらされなかったのはきわめて残念でした。