長嶺駐韓大使帰任と慰安婦像問題 | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

長嶺駐韓大使帰任と慰安婦像問題

 韓国との関係は隣国であるがゆえに難しい。互いに感情的にならざるを得ない側面がある一方、隣国であるがゆえに利害関係に基づき冷静に判断せざるべき点も少なくない。慰安婦像設置をめぐる日韓の問題についても同様である。長嶺駐韓大使の帰任は致し方ないながら、同大使の帰任以降、北朝鮮による挑発行為による朝鮮半島情勢の緊迫化、トランプ政権の強行姿勢、朴大統領逮捕に関連する韓国国内事情の変化と対日関係悪化の可能性等、大使レベルで喫緊に対応すべき問題が次々と発生した。

 このような状況に対しては、注意深い外交が不可欠である。我が国として譲ることができない点については明確に主張しつつ、メリハリのある形で、日本の国益に大きな影響を与える問題について協力できる余地を探りつつ、次期政権で主要なポストに就きそうな人物との人脈を模索するという、古典的ではあるが丁寧な外交が必要とされているように思われてならない。

 しかしながら現政権の一連の姿勢は、誤ったメッセージを与えかねないのみならず、メリハリのついたものではなかった。釜山総領事館前の慰安婦像問題を含む新たな問題以前の昨年の「不可逆的な」日韓合意の対象となった在韓大使館前の慰安婦像問題への対処は不適切であった。日本政府は、威勢のいい言葉でPRしたこの合意の履行がとん挫して国内的に不興を買うのを恐れたためか、韓国側をおもんばかったかのような腰砕けの態度に終始した。

本件合意については、昨年1月7日並びに3月17日の小生の国会質問で、慰安婦像は「撤去」ではなく「移動」であることを認めた。その上で、相手側が慰安婦像を移動しなくとも我が方が約束した10億円が支払われることを明らかにしたのであった。それから1年、韓国が慰安婦像を移動せずに合意を履行せずとも政府は、抗議どころか「適切に履行されるもの」と希望的観測を述べ続けた。韓国による「振り込め詐欺」に日本側がお墨付きを与えた状態を放置したことが、新たな慰安婦像設置を含む状態を引き起こしたのではなかったか。「不可逆的な合意」は皮肉なことに、旧来からの対日敵視勢力の立場を継続・強化させることを助長させたのではなかったか。

 このような中で新たな慰安婦像が設置されて日本側世論が沸騰すると、政府は大使を帰国させた。この帰国は致し方ない。また、現下の朝鮮半島情勢に鑑みれば、昨日の帰任も当然である。しかしながら、例えば先般の北朝鮮によるミサイル発射の直後に、高いレベルでの協議を必要としているとして、朝鮮半島情勢と共に慰安婦問題の合意履行を求める外務大臣書簡を携えさせて緊急に帰任させる等の措置を採ったならば、よりスマートに現状を打開すると共に、両国の間で協力すべきことと、我が国が強く求めていることを韓国側に理解させられたのではなかったか。

 現在の政府がバラマキ外交に徹する一方で外交音痴である状態は、今に始まった話ではないが、隣国に対する外交については、国内世論ばかり気にするのではなく、戦略的且つ最新なものでなければならない。

 

この点については、政治家としてしっかり政府を追及してまいります。長嶺大使の帰任決定前ですが、先月9日には、委員会で本件を取り上げました。ポイントは、以下の通りです。また、一部手直ししてありますが、正確を期してほぼ全文の委員会のやり取りを議事録から抜粋して、長文で恐縮ながら、ポイントの後に付しておきます。

① 10億円を振り込んだのに像が移動すらされていないことについて

② 財団の運営費用が我が国資金から出される可能性があることについて

③ メンツだけではなく、より幅広い視野で対韓外交を進めることについて

 

○大野元裕君 慰安婦像の問題については、不可逆的な解決を定めたとされる日韓合意から一年以上がたちました。在韓日本大使館の前の像については今どうなっているんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 在韓国日本大使館前の慰安婦像についての御質問ですが、これは一昨年の合意によって、韓国政府として、日本政府が公館の安寧、威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、適切に解決されるよう努力すること、これを韓国政府として確認をしているところです。こうした日韓合意の中身は誠実に履行されなければならないと考えています。

 その日韓合意の中身としましては、財団の設立等の対応が進んでいるわけでありますが、残念ながら、在韓国日本大使館前の慰安婦像については、現状動いておりません。以前と同じままであります。

○大野元裕君 大臣は大変お優しいので、韓国側の立場をおもんぱかり、合意が適切に実施される、解決されるべきというお言葉を何度も繰り返されておられますけれども、この移動すら具体的に働きかけるつもりというのはやっぱりないんでしょうか。

 しかも、なおかつ昨年七月には和解・癒やし財団設立された。この財団なんですが、当初聞いていたのは、運営費は韓国側が負担し、我々の十億円を含めて拠出を行っていく、こういうふうに聞いているんです。ところが、先月末なんですが、財団の運営費は我が方からの拠出金により賄われることが明らかにされました。韓国政府は、これまで日本政府が拠出した十億円の全額を元慰安婦のために使うとしてきたはずなんですが、財団側は、政府の予算削減などの現在の状況を考慮し、最小限の行政費用を日本の拠出金から賄うとしたと言われていますが、これについて事実関係を確認されておられますか。

○国務大臣(岸田文雄君) 御質問がありました運営費についてですが、これは韓国政府が予算から支弁すること、これを想定しておりました。しかしながら、二〇一七年度予算において韓国の国会で当該予算が認められなかった、こういった事実が発生をいたしました。そして、その後の取扱いについては今現在まだ決まっていないというのが実情であります。

○大野元裕君 決まっていないというのはおかしくないですか。我々はそういう想定の下に十億円払うという話については誠実に履行したわけですよね。もう既に我々の責務を果たしているわけですよね。その上で、これを彼らが予算をどう組もうが、癒やしのために使うというふうに言っている以上そこに使っていただく、あるいはその運営については韓国側で責任持つ、そんなことは当然ではないんでしょうか。

 大臣、この確認をもしされたとすれば、抗議し訂正を求めたんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) この財団の運営費については、韓国政府自体がこれは基本的に韓国政府から支弁することを想定していた次第であります。ただ、その後の動きとして、韓国国会において予算が承認されなかったということであります。その上でどうするかということにつきまして、韓国政府としても、これは真剣にどうするのか、これを決定していかなければならない立場にあると考えます。

○大野元裕君 お答えいただいていないようです。訂正を求めて抗議したんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 韓国政府もこの運営費は自ら出すということを想定しておりました。ただ、韓国国会でこれが承認されなかったわけですので、今後どうするかをこれは韓国政府として決定しなければならない、これが現状であると思います。訂正云々ではなくして、韓国政府としてどうするのか、これを明らかにしなければならないと考えます。

○大野元裕君 外務大臣、血税が元手です。そして、想定と異なる、合意と違う、不可逆的というのは恐らく変わらないということだと思うんですけれども、その不可逆的な合意に基づくものであって、それが違う形で使われたとしたらば返還を求めるべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) これは仮定に基づいて申し上げるのは控えなければなりません。

 いずれにしましても、一昨年の日韓合意は、合意の内容、国際社会が高く評価した内容であります。日韓両政府ともこの合意を履行する大きな責任を担っていると思います。中身を誠実に履行するべく両国が努力をしなければならない、このように思います。

○大野元裕君 両国が責任を負っていることは分かります。合意もありました。しかしながら、我々はその責務を果たしたけれども、慰安婦像は一センチたりとて動いていない。そして、中身については違うふうに使われている。こういうのを世に「振り込め詐欺」と言うんじゃないんですかね。それは、我々は国民の血税を元にしてそれをしたと。それを履行させるのは当然政府の責任であって、そうでない場合にはお金返してもらうのは当然のことなんじゃないんですか。

 しかも、仮定の話には答えないとおっしゃいましたが、先ほどから外務大臣は、こういう想定でしたというふうにおっしゃっておられます。我々は、やはり責任を持った形で、できないものについては返還を求めるべきだと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) この運営費に日本から拠出された資金を使う云々の話は、財団の関係者で一部そういった発言をしたということは承知をしておりますが、これは韓国政府が何かそういったことを発言したとか決めたとかいうものではないと承知をしています。

 韓国政府においては、国会の承認が得られていない現状にあるわけでありますので、その上でどうするのか、これをはっきりさせなければなりません。この推移についてしっかり注視していきたいと思います。そして、慰安婦像そのものについては、是非この合意に基づいて韓国政府が誠実に対応することを我が国としてもしっかり注視し続けていかなければならないと思います。

○大野元裕君 それはおかしいですね。大臣、私が一番最初に大臣に、確認しましたかと聞いているんです。相手国政府がどうされるかということも含めて確認をするというのは当然の話じゃないんですか。それはほっておいて、これからそうするべきであるというのは、おもんぱかるのはいいですけれども、しっかりとなさることが外務省の仕事ではないんでしょうか。いかがですか。

○国務大臣(岸田文雄君) 先ほどから御説明しているように、韓国政府も運営費は自らの予算で出すということを考え、そしてそれを国会の承認を得るべく手続を進めたわけであります。ところが、承認が得られていないというのが現状であります。韓国政府も、この運営費については今申し上げたような考えに基づいて作業を進めていた、これが事実であります。ただ、国会の承認が得られていない今、今後どうするか、これを韓国政府として真剣に考えなければならない、こうしたことだと思っています。

○大野元裕君 不可逆的な合意をお互いに実施する責任を担っていると、韓国側の事情でそれがうまくいっていない。これは二国間の国際合意やマルチの国際合意でも、もちろん承認されなければ、例えばですよ、国会が承認をしなければ、それぞれの国の批准手続が行われなければそういった機関にお金振り込まない、これは当然であります。ただ、我々はもう既に振り込んでいますから、そうですよね、だからこそ、振り込め詐欺と言われないためにもしっかりとした措置をお願いをしたいというふうに申し上げているんです。

 時間がないので、最後にもう一点だけ伺います。

 大臣、韓国との関係というのはこの慰安婦問題だけにとどまりません。私は、言うべきことはしっかりと言って合意をしっかり実施させるというのはとても大事だと思うんですが、もう一つ大事なことは、韓国というのは常に隣人です。そして、今北朝鮮をめぐる状況は風雲急を告げており、国益に鑑みてより広い視野というのも両方大事だと思うんです。

 もちろん、メンツだけの外交、これだけでは駄目です。その上で我々は、例えば釜山の問題もそう、総領事館前のですね。それから今回のお金もそう。韓国側での高いレベルで働きかけていくということも同時に大事だと思います。つまり、メンツだけじゃなくて、高いレベルで北朝鮮を含めた東アジアの情勢等についてお互いに利益となるところについては進めていくということも私は両方大事だと思うんです。

 その意味でも、アメリカを含めて韓国と共通の利益については、お互いに関係の悪いこと、都合の悪いことはあるかもしれないけれども、もう一方で、しっかりとしたパイプをつないでいくということは我が国の国益にかなうんだと思っていますけれども、大臣、私の最後の質問になりますけれども、そういった幅広い視野での、北朝鮮それから東アジアを見据えての韓国との関係について、最後にお伺いしたいと思います。

○国務大臣(岸田文雄君) 御指摘のように、日本と韓国の間においては大変難しい課題も存在いたしますが、一方で、韓国は、我が国にとりまして戦略的な利益を共有する大切な隣国であります。ましてや今、北朝鮮のこの状況が大変緊迫した状況にある。こういった状況を考えますときに、韓国との意思疎通、米国も含めたしっかりとした連携、この大切さは言うまでもありません。

 是非、協力できる分野においてはできるだけ協力の幅を拡大するべく努力をし、そして、ひいては日本の国民の命や暮らしや、そして繁栄を守っていくために努力を続けていかなければならない、このように考えます。

○大野元裕君 日本の外交・安全保障、正念場です。しっかり頑張っていただきたいと思います。