TPP協定の留保の撤回に関する質疑 | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

TPP協定の留保の撤回に関する質疑

昨1日、TPP特別委員会において質疑に立たせていただきました。この質疑では、トランプ氏のTPP撤退発言を受け、同氏との会談を踏まえて総理はいかなる対応を行うべきとお考えか、あるいは同協定に含まれている我が国だけに課されている7年後の再協議規定などについて議論させていただきました。

 

これらの議論の中でも小生が懸念していたのは、協定の留保の撤回についてです。条約や協定の留保というのは一般に、その協定に加盟する際に加盟国が、○○の部分については留保を付すので拘束されませんと宣言・通告するものです。ところがその国が置かれた環境や考え方が変わり、この留保を撤回する場合があります。

我が国においても、これまで留保の撤回を行ったことがあります。それは例えば、「絶滅する恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(いわゆるワシントン条約)」で、ウミガメやタイマイの取引禁止に留保を付し、当初はこれらの種を取引していましたが、1994年に留保を撤回し、取引の禁止となりました。また、社会人権規約Aの中・高等教育の漸進的無償化についても留保を付してきましたが、2012年にこれを撤回したのです。

 

この留保の撤回について政府はこれまで、憲法73条の規定に基づき、政府限りで行うことができるとしてきました。TPPについても政府限りで留保を撤回できるとすると、そこには大きな問題が生じます。つまり、国民皆保険や年金制度も、弁護士や税理士等の制度規制も、あるいは安全を監督するために航空・船舶・運輸・電力等の業種の会社を日本国内に置かせるという規制も、TPPが発効してもなお有効であるとする政府の根拠が、この留保にあるからです。すなわち、政府は国民皆保険制度を守ることができ、将来において新たに環境や保険制度で規制を課しても問題がなく、ISDSで訴えられないのは、TPP協定で留保を付したからだとしているのです。

 

ところが、これまで政府が主張してきた通り、政府限りでTPP協定の留保を撤回できるとなると、時の政府の判断次第で日本の社会保険制度や安全並びに環境のための規制が根底から覆されることになります。

本協定の発効は不透明になっていますが、かりに発効する場合にも、このような政府の恣意で長年継続されてきた良い制度が危機にさらされることは受け入れられません。そこで、これまで衆参の審議を通じて一顧だにされなかった留保の撤回についての制度的担保を取り上げました。この審議を通じて、TPPについては留保の撤回を政府限りで行うことはなく、国会に諮るとする答弁が初めて行われることになりました。

 

小生の本件に関する質疑の概要は以下の通りです。

 

(大野)公的医療制度を含む社会保障制度について、TPPが発効しても将来の制度変更も妨げるものではないとする根拠は、留保にあるのか。

(塩崎厚生労働大臣)協定には投資受け入れ国が公共の福祉にかかわる正当な目的のために必要かつ合理的な措置を差別的ではない態様で講ずることを妨げないとあるが、さらに、我が国は、公的医療保険制度などの社会保障制度を含む社会事業サービス、この投資に関する措置を留保しております。

(大野)この留保の撤回について、政府はこれまで国会承認を求めたことがありますか。また、留保の撤回に関する国会との関係について答弁願います。

(斉木政府参考人)留保の撤回については国会のご承認を求めることなく行政府として行ってきています。補足的に申し上げますが、一方的な意思表明と異なるTPP協定を含む経済連携協定においては、内国民待遇等の協定の関連規定の義務に適合しない各国の措置について、交渉の中で各国が互いに合意の上でそのような措置をリスト化し、協定の一部とするということがございますが、このような場合の留保と一方的な意思表明としての留保は異なり、法的性質を異にしています。

(大野)その通り、これまで政府は留保の撤回についての承認を国会に求めたことはありません。外務省は、一般論として留保の撤回に際し国会の関与は必要ないとしてきたのです。テレビをご覧の皆様にはわかりにくかったと思うので、ご説明させていただくと、要するに、協定の協議をするときの段階で留保というものが入っているときには条約の一部だから、留保を撤回したとしても国会の承認を求めるという趣旨の答弁でした。ところが、このことは一度も国会で表明されていないのです。本件は国民皆保険制度に限らず、日本の多くの制度を覆さないために重要であるので、外務大臣に伺うが、TPP協定に関して留保を付したものを撤回するときには必ず国会で審議をする、承認を求めるということを明言いただきたい。

(岸田外務大臣)改めて国会の承認を求めることが必要になると考えます。